禍福 前篇/後篇<東宝DVD名作セレクション> [DVD]

「禍福」は、恋愛に敗れて望まれない子供を生み、元カレに復讐を誓う女の物語です。

大恋愛の末、親の反対を押し切って結婚・・・?と思いきや、彼氏がアッサリとお見合いの相手を気に入ってしまうという、奇想天外な展開のお話でした。

今ではお見合いというのは あまり良い印象は無く、打算的だとか形式に陥りやすいというマイナスなイメージが強いと思います。
そもそも既に昔の風習という感じになっており、珍しい存在になっているというのが現状ではないでしょうか。

ところが自由恋愛というのは案外難しく、競争率が激しい上にコミュニケーション能力が求められたり、マッチングもなかなか上手くいかないというのが現実かもしれません。
逆に親が見つけてくる相手というのは家柄の水準が均衡していて、実は良いシステムだったのかもしれない、という一面が伺い知れるような作品でした。

お淑やかでひたむきな娘、豊美(入江たか子)


豊美は、外交官の試験にパスしたばかりの皆川と恋愛中です。
この頃の恋愛は今のように大っぴらにデートする事が許されておらず、今日は女友達(逢初夢子)の三千子に協力してもらい、やっと外出する事が出来ました。

皆川の合格祝いをしたかった豊美は皆川の下宿を訪れ、その夜に二人は初めて結ばれます。
ところが皆川にはお見合いの話が持ち上がっており、その話を断る目的もあって、彼はすぐに田舎へ行かなくてはなりませんでした。

将来を固く約束した二人ですが、豊美は内心不安が拭えずにいました。
そして皆川が故郷へ帰ってみると、父親は皆川の意志などを聞くつもりは毛頭ありませんでした。
このお見合いを断れば家業は途絶え、妹弟たちは路頭に迷ってしまうと皆川にプレッシャーをかけ、結婚を強制するのでした。
困り果てた皆川は、形だけでもとお見合いに参加しますが、意外にもその相手が気に入ってしまうのです。

入江たか子さんの出演している映画


明るくて頼りになる女性、百合恵(竹久千恵子)


百合恵は知性があって美しく、活発な女性でした。
思った事をズバズバ言葉に出して言いますが、当たりがやわらかなので嫌な感じはしません。
皆川が言いにくいような事も先回りするように理解してくれて、お陰で皆川の方が助けられてしまうくらいです。

妙な展開ですが、百合恵を一人で呼び出してこの縁談を断ろうとしていた皆川は、逆に豊美を捨てる気持ちになってしまいます。
言葉にしてしまうと ずいぶん酷い話ですが、確かに百合恵と皆川の間には、豊美の時とは違った温かな親しみのようなものが生まれてしまったのです。
このあと二人は東京で逢瀬を重ねますが、百合恵は「あなた方二人の問題が片付くまでは、良いお友達でいましょうね」と釘を刺すあたり、さすがはお嬢様の賢さをもった女性です。

皆川が豊美に事の次第を打ち明けると、豊美は大きなショックを受けて「色魔」とか「恨むわ」と散々罵ります。
それもその筈で、豊美は皆川の子を妊娠していたのです。
でも彼女は、それは決して言うまいと意地になり、自分一人で子供を育てて行くしかないと覚悟を決めるのでした。

復讐心に燃える豊美

豊美は自活するためにブティックの店員になりますが、そこへ百合恵がお客として通ってくるうちに、二人は友達になります。
百合恵は豊美の境遇に深く同情しますが、豊美はじつはこの百合恵こそが皆川と結婚した相手なのだと知る事になり、密かに百合恵の前から姿を消しました。

ところが子供を産んだばかりの豊美のところへ、何とか居場所を探り当てた百合恵が現れます。
そして「水臭いわ!子供を連れて家に来てくれれば良いのに」と過剰な程の親切心を発揮するのでした。
豊美は、この屈託のない心優しい百合恵の事を憎む気にはなれませんでした。
そして、これは皆川に復讐する良い機会だと考えるようになったのです。

皆川はフランスへ赴任して、暫くは不在のようでした。
その間 百合恵は心から子供を大切に思い、真心を持って二人に接してくれました。
豊美はだんだん、皆川への復讐をも躊躇するようになって行きます。
そして皆川が帰って来ると、豊美は黙って家を出て行く事にしたのです。

ところが、おかしく思った百合恵が探りを入れた事で、全ての事が明らかになってしまいました。
百合恵は深く傷つきましたが、全ての人が幸せになれるような選択を自分ひとりで考えます。
彼女の出した結論は、子供を皆川夫婦の子として引き取るという申し出でした。

1937年公開

この映画では、特に時代を感じる要素が少なかったのですが、強いて言えば何か“階級”の差のようなものを感じる作品でした。
例えば、庶民の豊美とお金持ちの家に生まれた外交官の皆川とは釣り合わないとか、豊美と百合恵は“お友達”と言いながら、あまり対等な感じはしません。
あからさまに行儀作法や言葉遣いが違うとか、知的レベルが違う訳では無いのに、何か見えない“階級の違い”が存在しているようです。
これは現代の感覚からすると、ちょっと不思議な感じです。

そして何より、豊美が百合恵に子供を譲るという行為に違和感を覚えました。
どうやら豊美が子供を譲る決め手になったのは「籍を入れる」という問題だったように見えます。
詳しい事はわかりませんが、戦前の旧民法では結婚していない父母の子供は戸籍に「私生児」、父親が認知したとしても「庶子」という記載がされてしまうため、何かと不都合が多かったのではないでしょうか。
豊美は皆川家の籍に入れてもらう事で、子供の将来が幸せになる事を願ったのでしょう。

成瀬巳喜男さんの監督映画


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