熱海は、昭和初期の日本映画によく登場する場所ですが、
町の様子が時代とともに変貌したり、作品ごとに違った趣を見せるところが魅力です。

かつては「社員旅行」というカルチャーが全盛期だった頃に賑わい、そして もっと遡ると明治時代にはブルジョアの別荘地であり、昔の小説や映画では「お忍び」で行くお泊り先として、よく登場していました。

それは、やっぱり熱海がただ首都圏から近いというだけでなく、ロマンチックなムードたっぷりのリゾート地だというのが理由だと思います。

今回は、昭和の熱海を見ることができる映画をまとめました。

【雪夫人絵図】貴族の別荘時代を彷彿とさせる

「雪夫人絵図」には、熱海がブルジョアの別荘地だった頃の優雅さが描かれています。

主人公は旧華族のお姫様で、熱海の別荘のシーンは、実在する建築物で撮影されたそうです。
和洋折衷の華麗で重厚な邸宅は、建設時は最先端のデザインだったろうし、今から見るとレトロモダン的な魅力があります。

とはいえ この映画で一番印象的なのは、このお屋敷から見える風景の美しさだったりします。

熱海の山はけっこう急な斜面になっているので、庭から直接 海が見えるようになっています。
そして屋敷の敷地は起伏のある凸凹した地形で、人工と自然の織りなす独特な趣があり、完全に「非日常」という感じです。
周りに建物がほとんど無く、まだ自然も豊かで、敷地の広さも半端なかった頃のダイナミックな景観が素敵でした。

ロケに使われた「起雲閣」という建物は今も健在で、熱海の名所になっています。

【男の償い・前後篇】別荘ブームの様子

「男の償い・前後篇」は戦前の映画ですが、熱海の別荘が「中流家庭」にも手が届くようになった様子が描かれていました。

映画の冒頭シーンでは、ちょっとお金持ち程度の家庭が、奮発して熱海に別荘を持ち、得意になっている様子が描かれています。

実際に、トンネルが開通したり東海道線が熱海経由となった事で、大衆化が進んだ頃だったようです。

とはいえ、そんな様子も今から見たらなかなか優雅で、小高い丘の上に建てられた立派な日本家屋や、芝生の庭から駿河湾が見渡せる様子を見ると、小さいながらも立派な「別荘」という感じです。
ただ、その持ち主があまり品が良いとは言えないような奥様方で、ちょっと「有閑マダム」というには庶民的すぎるのが笑えます。

麓の駅から坂道を登り、丘の上の別荘へ到着するまでの道のりの様子が描かれていて、坂道から見える海や木造家屋が素敵です。

【惜春】庶民的で艶めかしい熱海

「惜春」の熱海は、素朴で庶民的な雰囲気に描かれています。

この作品の熱海は、既婚男性と離婚歴のある女性の、ひと晩のささやかなアバンチュールの舞台として、どこか艶めかしい雰囲気を漂わせています。

映し出されるのは「ふもと」の光景で、丘の上の別荘地帯は出てきません。
2人が海岸や商店街を散歩する様子は、普通の人々の「つつましいデート」といった趣です。

「日帰り」の約束だったのが、名残惜しくてなかなか帰途につく気になれず、屋外のダンスホールで踊るシーンが、切なくて情緒的でした。
ホールは提灯などの大衆的な装飾に彩られ、流れるのは流行歌、眼下には熱海の夜景が広がって、戦後特有のちょっと うらぶれた雰囲気が漂っていました。

熱海には、2つの顔がある

熱海の山の手には大正から昭和、そして麓には高度経済成長期の雰囲気が色濃く残っていて、それを守り続けて行こうという「気概」のようなものを感じます。

観光名所は「起雲閣」と「旧日向別邸ブルーノ・タウト」などですが、旧日向別邸の方は大規模保存修理工事に入ってしまいました。

麓では、純喫茶などを覗いてみたくなります。
「田園」というお店は、店内に池があって鯉が泳いでいるという酔狂な作りになっていて、今のカフェとは全く別物の妖しい空気を醸しています♪

そして、昭和好きには見逃せないのが「ホテルニューアカオ」です。
海にせり出した断崖絶壁の高台に建つゴージャスなホテルで、まさに高度経済成長期の熱海を今に伝える、シンボル的な存在かもしれません。

美しい湾を見下ろし、巨大で綺羅びやかなシャンデリアが輝く「ダンスホール」は、クラクラしてしまいそうな豪華さですww
正直、誰が踊るんだろう?という疑問が残りますが・・・。

ヨーロッパの宮殿のような装飾の巨大なダイニングでは、いわゆる「ディナーショー」が毎日開催されているそうです。
そして、こんなに贅を尽くしていながら、あくまでも「大衆的」なのが このホテルの魅力なのです。

ここから見える夜景は、ホテルが岬に建つという位置関係から、まるで海側から熱海の町全体が見えるような眺望です。
そして、このホテルの広大な敷地には「錦ヶ浦自然郷」という断崖絶壁から海を見下ろせる散歩コースがあって、宿泊客でなくても自由に散策することができます。

【ちょっと余談】やっぱり坂が好き!

熱海が出てくる映画には、必ずといっていいくらい「駿河湾を見下ろす坂道」を歩く場面が出てきます。

それくらい絵になるロケーションだという事かもしれません。
ここは、今となっては隠れた名所になっている「海光町」の石畳の坂道ではないかと思います。

他にも、雪夫人絵図の邸宅のロケは「起雲閣」であるとされていますが、お庭や眺望の景観は「大観荘」ではないかと思っています。

あの勾配のあるお庭や立派な松、相模湾を見下ろす絶景は、大観荘の庭園にそっくりです。

貴重な遺構がどんどん消えて行くご時世になってしまったので、特にこの2点だけでも確かめに行かなければ・・という思いが高まります。

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