ミステリーやサスペンスというと、やたらと刺激が強いものや、謎掛けを楽しむようなパズル的な娯楽映画を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

ところが昭和の日本映画には、人間ドラマと相まって、何か考えさせられるような「心に残る」深みのある作品が存在します。

今回は、そんな いわゆる「サスペンスもの」というジャンルに収まりきらないようなミステリー&サスペンス映画をまとめました。

【33号車應答なし】ちょっとした油断が、命取りに・・・

「33号車應答なし」は、日常と非日常のギャップが恐ろしい『隠れ』サイコスリラー・サスペンスです。

悪は決して分かりやすい形で存在しておらず、実はありふれた日常的な営みの中に、紙一重の所で繋がっているという、ゾッとするような恐怖が描かれています。

深夜のパトカー巡回を担う二人組の巡査は、ひっきりなしに通報を受けるので大忙しです。
おまけに駆けつけてみれば、酔っぱらいのイタズラだったり、くだらない痴話ゲンカだったりと、街は拍子抜けするような呑気さです。

他にも地域住民との触れ合いエピソードなどもあって、やっぱり世間は善人ばかりだな・・・という気分になってきます。

ところがこの後とつぜん予想が裏切られ、流れが変わります。

最初に軽い伏線のように出てきた重要案件である殺人犯が、思いもかけない所に潜入していたのです。
そして巡査らは、ちょっとした油断から犯人に捕まってしまいます。

犯人は冷静で計画的な知能犯タイプだし、連れの女は人を人とも思わないようなサイコパスで、二人の命はもはや風前の灯火です。

おまけに巡査たちは犯人の逃走に利用され、絶体絶命のピンチに追い込まれて行くのでした。

【神阪四郎の犯罪】すさまじい疑心暗鬼と、真実が見えない恐怖

「神阪四郎の犯罪」は、心中を装った殺人の容疑をかけられた男をめぐる、恐怖の法廷劇です。

この法廷では、証人たちの証言がすべて食い違うという、凄まじい光景が繰り広げられます。

各々が自分に都合のいいような解釈をしたり、嘘を言っているのは間違いありませんが、誰が嘘を言っているのか、あるいは全員が嘘をついているのかが分かりません。

これは自分が被告だったら、さぞ怖いだろうなと思う状況です。
誰一人として味方はおらず、あまりにも辻褄の合わないバラバラの証言は、犯罪を立証できないどころか、ますます被告の立場を不利にしていきます。

その徹底ぶりは、まるで逆に証人たちが容疑者を陥れるために「結託」しているように見えてくるほどです。

その上、動かしがたい真実としか言えないような「被害者の日記」の存在が、被告に追い打ちをかけます。

これだけ嘘を並べられてしまうと、被告の最終陳述がいかに正当なものでも、何だか胡散臭く見えてきてしまう所が、裁判の限界を感じてジワジワ来ます。

【日本の熱い日々 謀殺・下山事件】映画よりも怖い、現実に起こった事件

「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」は、占領下の日本で実際に起こった事件を描いたドキュメンタリー映画です。

ストーリーは、戦後最大のミステリーといわれる国鉄総裁・下山氏の不審死の『真相』を追い続けた新聞記者の著作が元になっています。

ジャンルから言えば「ドキュメンタリー」なのですが、映画としては完成度の高いミステリー仕立てになっているので、当時の世相をからめた事件の内容が分かりやすく頭に入ってきます。

とはいえ内容は相当にヘビーで、独立国家の体をしていても、未だ独立国とは言えないような日本の現実を突きつけられます。

1949年の事件を10年に渡って追い続け、70年代に出版された著作を元に、80年代になってやっと映画化したという壮大な時間の流れには、事件の闇の深さを感じずにいられません。

そして事件が、謎の捜査打ち切りで未解決に終わったという不気味さには「ドキュメンタリー・ミステリー」とでも言ったらいいのか、洒落にならない恐ろしさが漂います。
日本の近現代史に興味がある人には、特におすすめです。

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