元気で行かうよ [VHS]

「元気で行かうよ」は、ある地質調査の会社で働く男と、山師の父親を持つ娘のツンデレ恋愛物語です。

佐野周二・上原謙・佐分利信の「松竹三羽烏」が出演しているし女優陣も豪華ですが、どこか固くて地味な印象の映画でした。

音楽や効果、ドラマ性も乏しく単調な感じで、ちょっとエンタメ要素は低いと思います。
時代背景を楽しむという目的を持たない人にとっては、退屈してしまうかもしれません。

時節柄、ユーモラスでチャラチャラした映画はもう撮れなくなっている頃の映画という感じでした。

ぶっきらぼうだけど優しい男、周二(佐野周二)


周二は、石炭の炭鉱を探して山へ赴いたり、地質を調査する仕事をしています。
ちょっと無骨な感じの男ですが、仕事の後には夜学の講師をするという感心な人物です。

この夜学が不思議で、子供たちの中に初老の男性なども混じっており、読み書きソロバンを習っています。
この頃はこういう講習が存在したのでしょうか?

そして職場では、少年が給仕として働いています。
この頃は今ではOLがやっているようなお茶くみ、取り次ぎ、書類の受け渡しなどの雑用を子供がやっていた光景を映画で良く見ます。
周二はこういう子に対しても親切で、小遣いをあげたり、悪い事をすれば真剣に叱ってやったりする良い奴です。

母親代わりの落ち着いた姉、絹代(田中絹代)


絹代は、本屋の店員をして家計を支えている しっかり者の娘です。
彼女の家庭には母親がおらず、絹代が母親代わりのような存在です。

絹代の弟は周二の所で給仕をしているのですが、その弟が周二にぶたれて怪我をした事がありました。
気の強い絹代は、周二に文句を言うために会社へと出向いて行きます。
ところが よくよく話を聞いてみると、どうやら弟が社員のランチ代をごまかしてお小遣いを稼いでいた事が分かります。
周二はふだんこの弟を可愛がっていて、今度のことは愛のムチとして弟をぶったのでした。

この事がキッカケとなり、周二は弟を通して絹代の家庭の事を色々と知るようになって行きます。
実は彼女は、厄介な父親を抱えて苦労しているのでした。
父親は金鉱を探して山を歩く、本当の意味での「山師」です。
借金があるわけではないので、中高年のアクティブ・ニートという感じでしょうか。
絹代は父のこういう生き方を嫌い、何とかして山師業から足を洗わせようと必死なのでした。

信念のバトル

ある日、絹代が周二に鉱石の分析結果の改ざんを依頼をして来ます。
調査の結果、どうやら父親の発見した山には見込みがあるらしいのです。
でも絹代は、父に諦めてもらいたい為に結果がダメだったという事にして欲しいと言います。

ところが周二は、頑としてそんな事は出来ないと突っぱねます。
自分の仕事に対する姿勢は真剣なのであって、科学者として調査結果を偽るなどという曲がった行為に加担する事は出来ないと言い張ります。
結果に満足してもらえないなら、この調査は最初から無かった事にしましょうと、書類を目の前で破り捨ててしまうのでした。

絹代はこの件で、利害の面では一致しなかったものの、周二の毅然とした態度には何やらハッとさせられた様子です。
信念を持つ者同士、どこかシンパシーを感じたのではないでしょうか。

1941年公開

映画の冒頭には、時代を感じさせるエピソードが出てきます。
主人公の二人がクタクタになって石炭の鉱脈を探しており、家庭では家政婦が「あんな大変な思いをして探していると思うと、おいそれと使えませんね」というセリフが出てきます。
これは当時の日本が、ブロック経済の煽りを受けてエネルギー不足になっている様子を描いているのだと思います。

最後に奥手な二人が結婚するという展開を見ていると、昔は世話好きがいてくれた事でまとまっていた縁談があったのだなぁ、という感じがしました。
今では こういう不器用な男女は、すれ違ったまま終わってしまうのかもしれません。

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