「母の戀文」は、当時の先端を行くような近代的な奥様を描いた、コメディ調のホームドラマです。

親の世代が堅苦しい武家的な家風なのに反して、子ども世代の方はすっかり欧米風でチャラチャラしていて、そのギャップが笑えます。

ただ価値観がだいぶ違う割には、親子の関係は ほのぼのとしています。
あくまでも衝突は避け、親の心情への配慮が細やかなのには、感心してしまいました。

この頃は、まだ男女が自由に付き合うという事は許されず、結婚は親が相手を決めるのが普通らしかったようです。

ところが適齢期の登場人物たちは、みんな親に隠れて恋愛を楽しんでいます。
妹のフリをして彼氏の大学へ遊びに行ったり、郵便ハガキに「暗号」を仕込んでデートの待ち合わせを指定したりする様子が、とても新鮮でした。

近代的なスーパー主婦、夢子(坪内美子)


夢子は、彼氏である高瀬と会う事すら、なかなか大変という状況です。
ところが、彼の妹である八重子(高杉早苗)という強い味方が現れ、念願の結婚を果たします。

この夢子の奥様ぶりがすごくて、妻の座に収まったとたんに、テキパキと高瀬家の采配を振り始めます。

家事をはじめ、家計の取り締まりから、女中の教育まで一切をこなし、妹や弟、姑ともたちまち仲良くなってしまいます。
特に姑に対しては、若い女性とは思えないほど巧みに心理を読み取って、上手に立ち回るのでした。

家計簿をきっちりつけて倹約し、料理も合理的な方法で進めていきます。
しまいには、自分で「押し込み強盗を撃退する」という知恵と度胸まで発揮してしまいます。

映画だから極端に描かれているとは思いますが、夢子は「近代的な賢い主婦」として、この頃の女性の憧れやトレンドを反映している気がしました。

完全に主導権を握られる夫、高瀬(小林十九二)

ところが、困ったのは夫である高瀬です。

結婚したとたん夢子に家計を管理され、お小遣いはわずかになってしまうし、友だちと飲みに行くのも阻止されてしまいます。

夢子の夫への束縛は、だんだんエスカレートして行きます。
彼が「お茶屋に行く」という事を嗅ぎつければ、タクシーの運ちゃんに頼み込んで、店の前で待ち伏せしたりします。
それでも開き直る夫に対抗しては、会社に乗り込み、同僚に「誘わないで」と釘を差したりする程です。

夫婦の喧嘩が、周りを巻き込んで行く

しまいには、窮屈になってきた高瀬と、夫の浮気の証拠を掴んだ夢子の間で大喧嘩になり、夢子は実家へ帰る事になります。

夫の浮気が原因で帰ったという事で、夢子の実家は騒然となります。

双方の親や、夫の妹とその婚約者、会社の同僚までも巻き込んで、大騒動となった割には、
結局、浮気は誤解だということが判明し、2人はアッサリと仲直りしてしまいます。

騒動の原因となったのは、夫の母親が若い頃にしたためた「恋文」だったのです・・・

ラストは夢子の
「この頃わたし、酸っぱいものばかり欲しくなるのヨ」
というオチで、めでたく幕を閉じるのでしたww

1935年公開

個人的には、ラストシーンで夢子の弟が、自作の妙な「ポエム」を披露する場面が気に入っています。
弟の彼女が「ステキだわ」と言いつつも、白目をむいて眠りそうになっている顔が映り、
ギャグのセンスが冴えているなぁ、と感心してしまいました。

この映画を見ていると、底抜けに明るく呑気なコメディで、ずいぶん良い時代だったように思えました。

ところが時代背景を見てみると、意外なデータが出てきます。
1934年頃は東北で大凶作になり、娘の身売りや欠食児童が深刻だったとか・・・

なんだか同じ時代とは思えないような、落差があります。
この頃は生活水準に凄まじい格差があったのだな、と感じました。

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