風の女王 [DVD]

「風の女王」は、ある中流の家庭で育った二人のタイプの違う姉妹が、それぞれの生きる道を模索するという物語です。

登場人物たちがやけに軽薄で、何だか道徳観が崩壊しかけている様子が描かれていて驚きます。
「戦前は封建的だった」とか「儒教の精神が色濃かった」というイメージを覆すような物語でした。

華やかな都会の生活や海外赴任、社内恋愛などに憧れる若い娘たちが、フワフワした夢に捕らわれて道を踏み外しそうになる様子には、相当危ういものがあります。

そして娘たちの親や上司である人生の先輩たちもまた信念や目標が無く、全体的に心もとない様子が描かれている映画でした。

生真面目で消極的な姉、由紀子(三宅邦子)

由紀子は真面目な性格で、平凡な幸せを求める女性です。

せっかくのチャンスが舞い込んでも、警戒心が強くてそれを掴む勇気は無く、それよりも平凡な結婚をする方が幸せだと思っています。
彼女は化粧品会社で事務をしていますが、会社ではいま女性の事務員の中から一人、フランスへ研修に出向かせようという企画が持ち上がっています。
そして、その候補として由紀子の名が上がっているのです。

ところが専務の福井(佐野周二)の、由紀子への赴任の告げ方が、彼女の気に入りませんでした。
福井は由紀子に電報を寄越し、時間外にオシャレなレストランへと呼び出したのです。
由紀子は警戒心を持ち、妹の布枝(高杉早苗)を一緒に連れて行く事にしました。
そしてフランス行きの話を聞いても一向に嬉しそうでもなく、むしろ福井には下心があると決めつけてこの話には見向きもしません。

ただ彼女がこれほど福井を警戒するのには理由があって、彼女は以前から想いを寄せていた同僚の三瀬(笠智衆)から、福井の悪い噂を吹き込まれていたのです。

無邪気な顔をして実はイケイケの妹、布枝(高杉早苗)

由紀子の妹である布枝は、無邪気なようで実は野心家で情熱的な娘です。

由紀子と一緒に福井の申し出を聞いていた布枝は、由紀子がけんもほろろに話を断ってしまうのを苦い思いで聞いていました。
「こんなチャンスを棒に振るなんて馬鹿だ」と、姉の消極的な考え方に頭に来ている様子です。
そして彼女は、姉が駄目なら自分でチャンスを掴もうと考えます。

こっそり福井に連絡を取り「姉が駄目なら、私とお付き合いしない?」と大胆に誘いかけます。
それが、いかにも擦れっ枯らしの女という風でなく、天真爛漫な感じの娘が言うものだから福井も参ってしまいます。
大人しい性格の福井は、布枝に由紀子への野心を見抜かれた上に「愛人契約」を申し込まれ、もうタジタジという感じですっかり彼女のペースにハマってしまいます。

暴走が止まらない布枝

福井はもちろん布枝の誘いには乗りませんでしたが、彼女はこうと決めたら後には引かない質でした。

布枝はさっそく家を飛び出し、お金もないのに高級ホテルに宿泊し、そこへ福井を呼びつけます。
そして今度は「友情」を持ち出して、自分の生活の面倒を見る事を強要し
「無理やり家に戻そうとするなら毒を飲んで死んでやる」
と脅すのです。

話だけ聞くと ちょっと頭がおかしい人のようですが、彼女の様子があまりにも無邪気な感じなのと、福井が優柔不断なのが相まって、本当にこのやり取りが成立してしまいます。
というか布枝の方が「押し」の強さで勝っていて、妙に理屈をこねるのが上手いし度胸もあり、実は完全に温室育ちの福井を手玉に取っているというのが事実かもしれません。

福井は仕方なく布枝を由紀子に引き合わせますが、姉も妹を家に連れ戻す事が出来ず、結局は福井が布枝に住まいを提供するというおかしな展開になり、布枝と福井との奇妙な関係が成立していきます。

それからというもの彼らのモラルはズルズルと崩壊して行き、遂には破局を迎えてしまうのです。

1938年公開

OLがスキーを楽しむ様子や、高級ホテルやレストラン、スケートリンクに外車などの都会的な生活が描かれていて、その浮かれた様子は ちょっと「バブル期」を思わせるものがあります。
戦前にもこういう時代があったのだな、と意外な気がしました。

布枝の行動は「援交」と取られてもおかしくない非常識なものだし、ワガママ娘の言うことをハイハイ聞いてお金を支払ってしまう福井も質が悪いような気がしました。

確かに行動の自由度だけが上がって、道徳の継承が充分に成されていないと、若い女性は迷走しやすいのかもしれません。
それが貧しくて生きるのが精一杯な家庭とかなら仕方がないとして、中流家庭で起こっている事だというのもポイントだと思いました。

娘の暴挙を看過するしかない家族関係の薄っぺらさや、一夜の過ちを苦にして自殺してしまうという福井の弱さを見ていると、彼らは近代的な都会生活の自由と便利さを手に入れたのと引き換えに、何か拠り所を失ってしまったようにも見えました。

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