「故郷」は、農村の娘が大学を出たものの、就職すらままならず、手痛い挫折を味わうという物語です。

時代的には支那事変(日中戦争)が勃発した頃の、農村での権力の横暴や
都市部でも不況と就職氷河期の中で、学歴も役に立たないという若者の苦悩が描かれていました。

一方で力強くて美しく映るのは、農家の人々の堅実な生活ぶりです。
勤勉で家族や隣人どうしガッチリと助け合い、温かい人間関係を保っています。

仲良しおじいちゃん2人組が楽しそうなのが印象的で、ああいう「地元の繋がり」のようなものを、再び取り戻す事はできないものか?と羨ましくなりました。

都会で「欧米かぶれ」してしまった娘、喜多子(夏川静枝)

物語は、東京の女子大を卒業した喜多子が、信州の田舎に戻ってくる所から始まります。


ところが妹を迎える喜多子の兄の態度は、どこか妙です。
どうやら喜多子は大学は卒業したものの就職が決まらず、仕方なく田舎へ身を寄せる事にした様子です。

当時の雇用事情も良くなかったのかもしれませんが、確かに喜多子はちょっと「甘い」人間だという事が、ストーリーが進むにつれてが明らかになってきます。

便利な都会生活にどっぷり浸かってしまい、使い物にならないような「教養」の知識ばかりが増え、自分の置かれている状況が見えていません。
店の手伝いや家事など、何をやっても中途半端で、ちょっと叱ったら すねたり泣いたりする始末です。

温かくて堅実な、故郷の人びと

喜多子の「ダメぶり」は、賢い弟との対比で強調されているようです。

剛は小学校5年生でありながら、お店の手伝いもしっかりとこなしています。
さらに手伝いの傍ら、自主的に勉強もするという優等生ぶりです。

そんな剛が、友だちと遊べずに一人ポツンとしている事がありました。
先生が不思議に思って聞いてみると、自分を除け者にしているガキ大将の家が、姉の就職を世話してくれるのだと言います。
その事を考慮して、ガキ大将の子とケンカするのを我慢して、じっと耐えているのでした。

お店の馴染みである八兵衛さんは、喜多子は兄への感謝が足りないと諭してやりながらも
「おっと、年寄りはこれがイケないね」
とおどけて見せる事も忘れません。
言うべき事はビシッと言うけど、同時に謙虚さも持ち合わせているのでした。

そして母親は、愛情に満ち溢れています。
一見マイペースで呑気な「田舎のおばあちゃん」という感じですが、じつは娘の心理など全てお見通しです。
彼女は娘に会いに東京へ訪ねて行った時、喜多子が嬉しそうではなかった事、農家の出である事を恥じている事を知りました。
そして本当は、大学へやった事を後悔しているのだと打ち明けます。

喜多子の兄は父亡き後、一家の主としての役割を背負っています。
彼は喜多子を大学に通わせる為に、先祖の代から所有していた田畑を売ってしまいました。
今では弟と2人で営む「よろず屋」が唯一の資産らしく、あまり余裕は無さそうです。
喜多子の出世だけが頼りで、喜多子にすべてを賭けていたのでした。

ところがアテは外れ、喜多子は就職すら ままならず、故郷に帰ってきたのでした。

家に居づらくなってしまう喜多子

そもそも大学への進学は、喜多子も強く望んでいた訳ではありませんでした。
喜多子が優秀だったので、周囲に「進学すべきだ」とか「出世できる」みたいな事を言われたのかもしれません。

喜多子も兄も、怒りのやり場を何処へ向ければ良いのかわからず、何かと衝突してしまいます。
八兵衛さんの放つ「こんな紙切れ一枚が、えらく高くついたものだな」という言葉も、喜多子の心に突き刺さります。

喜多子からすれば、自分の強い意思で進学したわけではなく、就職できなかったからといって責められるのは理不尽な気がしてしまいます。
おまけに都会での「消費生活」に慣れてしまい、今では田舎のハードな肉体労働などとても出来ないヤワな身体になっています。

しまいには兄と大喧嘩になり「都会組」と言われる学生時代の友達を頼って、家を出るのでした。

1937年公開

現在のお母さん達は、子供を良い会社のサラリーマンや、事務系の公務員などにする為に、一生懸命になっている人が多い気がします。
それは職人や肉体労働、フリーランスの世界は厳しいから、苦労させたくないという親心からだと思います。

ところが今となっては、キレイで楽でリスクが低いと思われていた「ホワイトカラー」といわれる仕事は、需給バランスが崩れる事で、むしろキツイ、安い、不安定な職場に変わりつつある時代です。

たとえ大学を出てサラリーマンになれたとしても、本当に幸せになれるかどうか怪しいところです。
母親が苦労してパートに出たりして子供を塾へ行かせても、見返りがあるかどうかは、その苦労の度合いと比例するわけではありません。

それよりも、この映画に出てくる弟くんのように社会経験を積んだり、積み上がっていくスキルを身に着けた方が、実は安泰なのではないかと思ってしまいました。
喜多子の弱さを見ていると、何だか身につまされてしまうような映画でした。

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