「禁断」は、不倫の恋を描いたドラマですが、
そのタイトルからくる想像に反して「純愛」の物語でした。

映画で描かれている愛は、
激しい情熱というよりも「深い絆」のようなものです。

恋愛というテーマだけをとことん追求したドラマで、
登場人物の置かれている環境や社会的立場は、
あまり重要視されていないように思えました。

本当に二人だけの世界が存在するような、
ちょっと神秘的な雰囲気が漂う作品でした。

愛する事を恐れない女、紀子(叶順子)

紀子は、普段はクールに医者をしていますが、
実はとても情熱的な女性です。

彼女は、病院に自殺した男が担ぎ込まれて来たとき、
その付添人・酒井(宇津井健)と出会います。

自殺した男は酒井の親友で、その原因は恋愛沙汰のようです。
酒井は、稀有な才能の持ち主が色恋沙汰で自殺した事に納得がいかず、
嘆き悲しみます。

ところが、それを聞いていた紀子は
「恋愛がくだらないとは思わない」みたいな事を思わず口走るのです。

美しい女医のこの言葉に、酒井は何か引っ掛かりを覚えるのでした。

そして二人は、偶然また出会います。
酒井は紀子を食事に誘い、
紀子もどこかこの男に興味を覚えて、その誘いを受けます。

酒井には妻も子もあり、彼はそれを隠そうともしませんでした。

紀子にも病院に婚約者のような存在がいるのですが、
二人はだんだん惹かれ合って行きます。

本当は真実の愛が欲しい、酒井(宇津井健)

ザ・ガードマン東京警備指令1965年版VOL.3 [DVD]

酒井は今までも、何度か情事を経験しています。

そのたびに「今度こそは本物かも」
という希望を抱いては、失望してきました。

彼は、子供は可愛いけど、妻とは愛情を育めていないのです。

酒井は病院で聞いた紀子の言葉の意味を、もう一度訪ねます。
すると紀子は、かつて付き合った男性に捨てられ、
自殺未遂を図った事があるという話をします。

それでも彼女は、全身全霊を込めて愛した事を
後悔してはいないと言います。

酒井は彼女ともっと近づきたくて、
出張に行くとき、一緒に旅行して欲しいと誘いをかけます。

ところが出発の直前、紀子から断りの電話を受けた酒井は
いても経ってもいられなくなります。
彼の中で「彼女を失いたくない」という感情が芽生えてきたのでした。

客観的には見えない世界がある

いちどは酒井の誘いに躊躇した紀子ですが、
それは たちまち後悔に変わりました。

そして自分が傷ついても、捨てられても、
酒井ともう会えない方が辛いという事を悟ります。

紀子はこの後、もう迷う事はありませんでした。

紀子の婚約者がアレコレと妨害を企てても、彼女はビクともしません。
婚約者はそんな紀子が見ていられず
「結局は不倫じゃないか。
行く末は君が捨てられる事は目に見えてる」
という正論を訴えます。

それに対して紀子は、動じるどころか
「あなたには分からない」と
自信と陶酔に満ち溢れた態度を示します。

二人の究極の愛の前には障害など存在せず、
現世的な利害などは超越してしまっているかのようです。

ところが、この恍惚ともいえる至福の愛に満たされたとき、
酒井は飛行機事故で帰らぬ人となってしまうのでした。

1962年公開

人は「生死の境」を経験すると、
感覚が研ぎ澄まされて覚醒状態になる事があるようです。

そして、実は恋愛にもそれに近い作用があるのではないか?
と思う事があります。

恋愛にも色々あるかもしれませんが、
いわゆる舞い上がったりとか
キュンと苦しいというのとは違った、
何か感覚や感性が鋭くなるような、ちょっとした「覚醒」感です。

些細な事に感動したり、ありふれたものが美しく見えたりと、
感情が「増幅」されるのです。
それも激しい感情というよりは、穏やかで深い「喜び」です。

上手くは言えませんが「死」を意識した時に似た、
「今」という瞬間を生きている事への実感が湧くのかもしれません。

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