「絹代の初戀」は、下町人情の風情が残る商店街を舞台にしたホームドラマです。
ヒロインが、まだ年頃なのに母親代わりとして生きなければならない様子が、ちょっと可愛そうでした。
彼女の頼もしく、若くして人間が出来ている様子には感心させられます。
下町が舞台で、近所の人々が江戸時代の名残がある暮らしをしている一方で、
お父さんや妹は、近代的なホテルや証券会社に務めているという、都会と下町のギャップが面白いです。
寂しい娘時代を送る長女、絹代(田中絹代)
絹代はまだ若いのですが、母親代わりのような存在になってしまった事でどこか世帯くさい感じがします。
小僧と二人で煎餅屋を切り盛りしている様子は、しっかり者のおかみさんといった風情を醸しています。
父親はちょっと頼りなく、絹代がまるで奥さんのように世話してやらなければなりません。
妹はもういい年頃なのに、どこか幼さが抜けない感じで、姉妹なのに絹代とは親子ほどの違いを感じさせます。
結局は妹が先にお嫁に行く事になるのですが、絹代が妹を送り出す様子は まるで母親のようです。
夫に呼びかけるときは優しく「あなた」と言うのよ、と実演してあげる場面は、ちょっと不思議です。
昔の母親は、娘にこんな手ほどきをしたんだろうか!?というカルチャーショックを覚えました。
優しくてちょっと頼りない、お父さん(河村黎吉)
お父さんは、どこか抜けている感じですが、気のいいオヤジです。
あまり仕事が出来るタイプではないのですが、絹代の辛い立場をちゃんと理解しています。
妹が先にお嫁に行ってしまった事で、ちょっと落ち込んでいるのもお見通しで、冗談を言って笑わせてあげたりします。
絹代はどうしても「自分がしっかりしなくちゃ」と気が張っている所があるので、お父さんが馬鹿話をして緊張をほぐしてやっているように見えます。
父、男泣きに泣く!!
ある日お父さんは、勤務先のホテルでミスをして、その場でクビになってしまいます。
長年勤めていた従業員に対する仕打ちとは思えず、まるでアメリカのような解雇の情景に驚きます。
お父さんは、普段から絹代に苦労をかけているという意識があるので、余計に自分の不甲斐なさに落ち込んでしまいます。
家に帰る気にもなれず、近所をフラフラしている所を絹代に見つかってしまいました。
ところが絹代は驚きもしません。
「そろそろ辞めてもらおうと思っていた所なのよ、ちょうど良かったわ」
などと言って、父を気遣うのでした。
更に
「今までこうして育ててもらったのだから十分よ、こうして若い人に道を譲って行くのが本当だわ」
と諭して、父親のきまり悪さを取り除いてあげるのでした。
いつも馬鹿話ばかりしているような父親も、この絹代の態度には言葉を失ってしまいます。
下手な女房よりも、ずっと頼もしい肝の座り方をしていて驚きます。
ちょっと出来過ぎているような気がしますが、親が頼りないと、こんな風に子供がしっかりするものなのかもしれないと思いました。
1940年公開
こじんまりとした手焼きのお煎餅屋や、髪結いの商いなど、今ではもう見られない光景が新鮮でした。
黒板と読み上げという、証券会社のアナログな様子もすごいです。
お父さんがアメリカ式に首を来られる様子は、いかにも帝国主義時代の資本主義社会という感じですが、一方で妹が重役に向かって思ったままの批判を口に出す様子は、今からみてもなかなか爽快でしたww
「昔の恋愛は、一目惚れだった」というセリフを、何かの映画で見た事があります。
ひと目見ただけで これほど恋い焦がれられるって、すごい想像力だと思います。
もしかすると、昔の人は直感が鋭かったのかもしれませんが・・・。
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