「お茶漬の味」は、お見合いから恋愛へと、結婚のスタイルが変わっていく様子を描いた物語です。
叔母さんと姪っ子との間で随分と常識や感覚が違っていて、大きく価値観が変化した時代なのだと思いました。
そしてそれ以上に、叔父さんと甥っ子との人格のギャップが印象的でした。
叔父さんは落ち着いていて貫禄があり、現代ではお目にかかれないような立派な様子です。
奥さんの冷酷な態度にも全く動じず、家でも勉強していたり、お手伝いさんへの態度にも愛があります。
一方で甥っ子の方は、言動がいちいち薄っぺらな感じで、何やら好感が持てません(^_^;)
作品の明るく呑気なテイストとは裏腹に、どこかレジャーで誤魔化しているような、若者や有閑マダムたちの空虚さを感じました。
物静かでマイペースな旦那様、佐竹(佐分利信)
佐竹は、大手企業のサラリーマンです。
彼は将来有望らしく、経営陣に見込まれて重役の娘と見合い結婚をしています。
こうして出世コースに入ったのは良いけれど、そのせいでまったく奥さんに頭が上がらないような立場です。
奥さんは上流階級の人で、佐竹は田舎者の叩き上げタイプ。
お互いの生活様式や価値観には隔たりがありますが、その事でいつもイライラするのは奥様の方です。
佐竹は大らかで多くを語らず、奥さんがどんなに好き勝手をしても、厳しい言葉を浴びせても、文句一つ言いません。
とはいえ彼は、別に小さくなっているという訳でもありません。
能天気で遊び好きの甥っ子、登(鶴田浩二)
登は、佐竹の甥っ子です。
遊び好きでいつも楽しそうな軽い感じの青年で、相手が年上だろうと初対面でも、物怖じせずペラペラとよく喋ります。
登は就職に協力してくれたお礼に、何かと佐竹の所へ来ては遊びに誘います。
そして佐竹とつるんでいるうちに、奥さんの姪である節子と出会い、何となく仲良くなって行きます。
節子は無理矢理お見合いをさせられ、必死で抵抗している所でした。
彼女は、お見合い結婚は旧弊で野蛮な風習で、パートナーは尊敬や愛情が持てる人でなければ、絶対に嫌だと主張します。
ところが登は
「お見合いだろうと、相手が良ければいいんじゃない?」という意見です。
一見チャラいだけの登ですが、節子の恋愛に対する憧れに対しては、キッパリと批判を加えるのでした。
仮面夫婦の危機
一方で佐竹たちは、ふとした事で夫婦関係の危機を迎えます。
原因は、節子のお見合いへの意見の食い違いでした。
奥さんは強行にお見合いを推進するし、佐竹は嫌ならばしょうが無いというのです。
佐竹はその流れでつい、自分たちの結婚生活について核心に触れてしまいます。
そこへ佐竹の急な海外赴任が決まり、二人はすれ違ったまま別れる事になったのです。
さすがの強気な奥さんも、今度ばかりは終わりかもしれないと思ったようです。
まさかの、豹変。
ところが夫が、再び家に帰ってきたのです。
飛行機が、事故で立ち往生したのでした。
ワガママが過ぎたと反省した奥さんは、ふだん口には出さなかった想いを告げ、無口な佐竹もそれに応じます。
すると何の事はない、二人は相思相愛だったのでした。
価値観や育ちの違いで、なかなか理解し合えなかっただけなのだと分かると、奥さんの態度は豹変して急に「旦那さんラブ!」状態になってしまうのでした(^_^;)
その様子を見た節子は「バカバカしい」と思いつつも、身近な教材で学習した所があったのではないでしょうか。
そして登は、自分にも佐竹のような「男らしさ」があると確信しているようで、節子も自分の事が好きになると決めつけています。
佐竹と登では「頼もしさ」の種類が違うような気がしますが、登も上手く時代に乗って、世の中を渡って行くのかもしれません。
1952年公開
1952年といえば、サンフランシスコ平和条約の発効で、日本が主権国家として独立を回復した年というから、ちょっと驚きます。
この映画には、パチンコに競輪、B級グルメ、ナイター、奥さん連中での温泉旅行など・・・色々なレジャーの様子が出て来るのが印象的でした。
まるで「大人も大いに遊べ!」という消費文化が推奨されているみたいです。
そして「翻訳ものの内容がスゴい」なんていう、小説についての話も出て来ますが、この頃はまだ おっとりとしたレトロ感があると思います。
このあとの大きな変革期は、やっぱりテレビの登場からなのでしょう。
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