「私たちの結婚」は、貧乏と闘いながらも幸せを掴もうと奮闘する姉妹の物語です。

ヒロインの悩みは、一見「お金か?恋愛か?」みたいな二元論に単純化されています。
でも実は、裏テーマとして言葉には現れていないものの、当時の日本人の「大和魂か?欧米への追随か?」みたいなせめぎ合いに揺れている心情が表れているような気がしました。

ボーイハントに励む友達との会話で「青い目の男」という表現が出てきたり、ヒロインの願望として「結婚生活には冷蔵庫や洗濯機などの家電が必須だ」なんて話が出てきます。
こういったエピソードには、豊かなアメリカ社会への憧憬が現れていると思います。
木村という男はこの豊かさを具現化したような存在で、それは木村がプレゼントしてくれる“ハイヒール”が象徴しているようです。

ちなみに、世界中に物質至上主義的な価値観をもたらす事になるアメリカの人気ドラマ「奥さまは魔女」は、この映画の2年後に始まっています。

結局は木村を選ぶ姉はどこか“冷たい”印象を残し、日本男児を選んだしっかり者の妹の方が高感度を持って描かれているように見えます。
こういう描かれ方を見ると、当時の日本人は富への憧れを持ちつつも、欧米流の価値観にどこか反発心を持っていたのではないかという印象を受けました。

人生の分かれ道に立って迷う、圭子(牧紀子)

圭子は、工場の会計課で働く事務員です。
圭子はとても美人な為、会社の職工、父親の働く海苔業組合の組合長の息子やアパレル業者など、色々な所から結婚話が舞い込みます。

まず妹を通して知り合った職工・駒倉と付き合っていた圭子は、ちょっと羽振りの良いアパレル業者・松本(木村功)と出会った事で気持ちがグラ付き始めます。
駒倉とは淡い恋心が芽生えはじめていたものの、現実的に彼との結婚は先が見えています。

圭子は、父親の営む海苔業が衰退している事を気にかけており、自分の将来に対しても危機感を抱いています。
圭子は周りの人を見ていると、自分の価値観がよく分からなくります。
気持ちを大切にして貧乏な男と結婚した人は、女は結婚して子供を生む事が幸せだと思っているにもかかわらず、夫に言われて子供を堕ろさざるを得なくなります。
一方でアメリカ人を引っ掛けて裕福に暮らす友達は、魂が無いように見えてしまいます。

そんな揺れに揺れる圭子の前に、羽振りの良いアパレル業者・松本が現れ、まるで安定した生活をチラつかせるかのごとく圭子に結婚を迫るのです。

価値観が定まっていて迷いの無い、冴子(倍賞千恵子)

圭子の妹・冴子は、しっかり者で意志がはっきりしています。

冴子は圭子と駒倉の間にやたらと介入して、二人の仲を取り持とうとします。
圭子が駒倉の経済力に疑問を持っているのを知るや「貧乏など問題ではない、愛情がいちばん大切だ」と迫り、執拗に姉に働きかけます。
冴子は姉が感情よりも経済を重視するのを戒め、貧乏は怖くないと主張し、父親が持ってきた縁談にも猛反対します。

冴子の行動はだんだんエスカレートしていき、松本へ直談判して姉を諦めさせようとさえするのでした。

圭子の決断

圭子はある日、松本から具体的なアプローチを受けます。
松本は母親が病気であまり猶予が無いため、故郷へ一緒に行って欲しいと願い出ます。
それを聞いた圭子は決心を固め、松本と行く事にしました。

圭子は自分の決心を駒倉に告げ、別れを切り出します。
駒倉は「圭子が後悔する事を望む」などと捨て台詞を吐くのでした。

それを聞いた冴子は怒り心頭になって駒倉の元を訪れ、彼を攻め立てます。
どうやら冴子は、自分自身が駒倉の事を好きだったという事に気づくのでした。

1962年公開

この映画は相当に生活描写にリアリティがあり、近海で海苔が生産されていたり、大規模な工場で大勢の職工が働く姿が描かれていて、当時の川崎の様子を窺い知る事ができます。

あんな工業用水が流されている海で海苔を作ったり、魚釣りをして食べていたという事実は、今の中国みたいでかなりファンキーです。

60年代はいよいよ高度経済成長期が本格化してくる頃ですが、製造業の発展と共に60年代の後半には水俣病・新潟水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそくといった四大公害訴訟が提訴され、公害は社会問題となって行きますが、この頃はまだそういう意識は低そうです。

映画では当時の金銭感覚が現されていて、そちらもなかなか興味深いものがあります。
貧乏にあえぐ若夫婦の生活費が1万3千円、職工の給料が1万7千円、娘の理想月給が3万円、丸の内の大手企業秘書だと5万円という金額が具体的に紹介されています。
消費者物価指数による幣価値換算だと、当時の物価は現在の1/5位らしいのですが、ざっくり計算してみると相当厳しいものがあり、娘が迷うのも無理もない気がしてきます。

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