「細雪」は、大阪の豪商であった旧家が没落していく中で、時代や環境の変化に戸惑う四人の姉妹を描いた物語です。

この作品で一番興味深かったキャラクターは、三女の雪子と末娘の妙子でした。
この二人は正反対とも言える性格だし、同じ家庭で育ったにも関わらず価値観も生活もかけ離れています。
それでいて、お互いの深い愛情を感じるのです。

姉妹の中でも特別仲良しなこの二人は、時として誰よりも厳しい言葉を相手にぶつけたりします。
それは相手の事を深く理解しているだけに容赦がなく、本当の身内だから言えるような痛烈な時もあります。

それでも雪子がお嫁に行くときには妙子は心から喜び、雪子は「本当は嬉しくない」などと言って妙子を気遣います。
姉妹の心の結びつきが、お互いの違いを越えてしっかりと存在している確かさが伝わってきました。

「生きる力」を求めて彷徨う末娘、妙子(高峰秀子)

妙子は行動力があって、一見自立した娘のように見えます。
ただそれが中途半端なものでしかなく、どこか不安定な感じがします。

彼女は過去に駆け落ちをしたものの、結局は意地を通し切れずに家に舞い戻って来るという事件を巻き起こしています。

そして、その後 駆け落ちの相手である「啓ぼん」とは別れたのかと思いきや、実はまだダラダラ付き合っているという結構しょうがないお嬢さんです。

彼女は自立心が旺盛で、姉たちのように漫然と「お嫁に行く」という生き方には不安があるようです。
それで人形制作という不思議な商売をしているのですが、収入と支出のバランスを保つまでには至っていません。
贅沢な暮らしが止められず、啓ぼんに高価な品をプレゼントさせていたりします。

そして その啓ぼんも、家の品物を持ち出したりしていて始末に悪いものがあります。
妙子と啓ぼんの関係はどこか いかがわしく、妙子にとって啓ぼんは結局 「貢ぐ君」でしかないようです。

それでいて妙子は、本当に愛する人が見つかっても、啓ぼんと別れるという決断が出来ません。
「どうして、こんなに啓ぼんと気が合うのやろ」
などと言ってベタベタしていたかと思えば
「ウチもう啓ぼんの顔見るのも嫌や」
と言って突き放したりして、啓ぼんを散々 翻弄します。

それでも妙子は最愛の人との愛を貫くために、本気で啓ぼんと別れて自活の道を歩もうとします。
ところが そんな矢先に相手の男性が急な病気で亡くなってしまい、妙子は自暴自棄になって人生の坂を転がり落ちて行くのでした。

旧家の因習にとらわれた、雪子(山根寿子)

雪子は大人しくて家庭的な、ちょっと浮世離れしたお嬢さんです。
内向的でボンヤリしているように見えるのですが、どこか肝が座っていて決してジタバタしない性格のようです。

そんな彼女にも、秘めた悩みがあります。
雪子は、蒔岡家が零落してきた時期にちょうど年頃を迎えたため、婚期を逃しています。
何度お見合いをしても「蒔岡家の誇り」へのこだわりで、結局いつも断ってしまう為です。

ところがそんな事を繰り返すうち気が付けば行き遅れてしまい、だんだん条件が悪くなり、しまいには「断られる側」に回って来るとさすがに焦りを感じ始めます。
「未婚の女性に現れがち」という顔のシミがとても気になっていて、いつも女性ホルモンを「注射」したりしています。

ただ彼女の問題はそこではなく、どちらかと言うとその「浮世離れしすぎた性格」のような気がします。
ある時お見合い相手から電話がかかってくると、まるで大事件のようにうろたえて「電話は苦手」と相手を散々待たせたり、相手が外出に誘っても「知らない男性なんかと二人で会ったり出来ない」と怯えて、ロクに応答も出来ません。
とうとう相手を怒らせてしまい、この話は流れてしまいました。

そんな雪子ですが、彼女は意外と言いたい事がある時は、厳しい口調ではっきりと自己主張するのです。

妙子が労働者階級の男性と結婚したい事を告げた時など
「そんな卑しい男を弟になぞ迎えたくない」とキッパリ言い放ちます。

啓ぼんの婆やが、貢がされているだけの啓ぼんを見かねて蒔岡家に談判に訪れたときも、妙子の所業を厳しく追求するのでした。

姉妹がそれぞれ辿った道

すっかり行き遅れの感が強かった雪子は、最後には良い相手に恵まれて無事結婚する事が出来ました。
不安を抱えつつも拘りを棄てきれず、自分を貫いて得た結果に納得しているように見えます。
雪子はなかなか他人に馴染む事が出来ない反面、一度身内になったらとことん親密に深い関係を築いていくような気がします。

一方で妙子は、最愛の男性が病気で亡くなったショックで酒を煽り、自暴自棄のような生活を送っていました。
それでも新しい彼氏が出来るのですが、彼との間に出来た子供を死産で失ってしまいます。

雪子が姉に
「妙子は強がってはいても、結局は気の弱いお嬢さんだったんじゃないかしら」
と言う様子からは、誰よりも妙子の事を理解していていたのは、やっぱり雪子だったんだという事が伝わって来ます。

1950年公開

「細雪」の原作は戦前に書かれてたものですが、蒔岡家の人たちが東京へ転勤になる事を「都落ち」のように捉えている所が意外な感じがしました。

蒔岡家は船場や芦屋などを拠点に暮らしてきた豪商であり、当時の大阪の伝統的な商人にとって、東京はあくまでも新興の都で「粗野な土地」という認識だったようです。
船場は空襲で失くなってしまいましたが、京都のような「由緒正しい」といった感じの古都だったのですね。

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