「愛より愛へ」は、医者の一人息子がホステスの女性と恋に落ちて親の反対に会い、家出して同棲を続けながら弱っていく若い二人を描いています。

あらすじ的には暗い悲恋ものかと思いきや、明るく呑気なラブコメで、なかなか爽快な展開をみせてくれます。

医者の一人息子のダメ男ぶりと、男を支える恋人のはかなさとは裏腹に、お人好しで世話好きの叔父と、活発だけどお上品な妹の活躍には、なにか元気づけられる力強さがありました。

まるで成熟した女性のようなタフさと、それでいて初々しい明るさを持った妹を見ていると、女性ならではのコミュニケーション能力や問題解決力というものが存在する事を実感させられました。

頑なな心を解きほぐしていく妹、敏子(高峰三枝子)

茂夫の妹・敏子は、お嬢様育ちだけど相当に活発な娘です。
子供っぽい兄と比べると、まるで世話女房のように頼もしく見えます。

家出した兄が気がかりで、何とか家に戻ってもらおうとするのですが、そのキッカケ作りが絶妙です。
「参考の為にアパート暮らしを見てみたい」と提案し、兄の”愛の巣”に訪問してしまいます。

敏子はこの小さなチャンスを逃さず、今度はお土産を持ってきたり映画に連れ出したりして、美那子と仲良くなってしまいます。

そして、まずは母親から攻略しようと、美那子の良い印象を一生懸命に伝えたりします。

頑固な兄や父は後回しにして、女同士の結びつけ辺りから始めるという頭の良さは、ほとんど若い女性とは思えません。

世話好きで、お茶目な叔父(坂本武)


茂夫の叔父は新聞社の社長をやっていますが、ちっとも堅苦しい所はなく、冗談を飛ばしまくるというサービス精神旺盛な人です。

ニッチもサッチも行かなくなった茂夫は、この叔父に泣きつくしか仕様が無くなってきます。
叔父はこの甥を暖かく迎え入れ、家に帰るように諭しながらも夕食を振る舞って歓待してあげるのでした。

ただ、この叔父は甘いだけではありません。
一見人肌脱ぐと見せかけて、裏ではちゃんと根回しは行っています。
茂夫が叔父の会社の面接に現れると、人事の者が「身辺整理をした上で」という条件を付けるのです。

頭ごなしに強制するのではなく、自発的に帰りたくなるように仕向けているんですね。
かといって他人事として見過ごす事もせず、あくまでもこの問題を解決してあげようと本腰になっている姿勢が見て取れます。

妹敏子の叔父の暴走がキッカケで・・・

茂夫の実家の問題に埒が明かないのを見かねて、世話好きの叔父はとうとう自ら“椿姫”の父親役を買って出る事にします。
美那子に直に会い、茂夫と別れてくれとお願いするのです。
美那子は元々こういう展開を覚悟しており、茂夫も何だか心もとないという事もあったのかもしれませんが、美那子は椿姫のようにあっさり承諾してしまうのでした。

ところが事の顛末を聞いた敏子は大激怒。
「ひどい仕打ちだ。みんなが美那子を見捨てるなら、自分が家出して彼女を助ける」などと大胆な啖呵を切り、その思いの強さにとうとう父親が折れるのです。
どうやら父親も息子も頑固と見せかけて、どう振る舞って良いか分からないような優柔不断さがあったようです。

叔父の少し行き過ぎた行動力と敏子の勇敢さが、弱い二人の愛を守ったのでした。

1938年公開

1938年といえば中国との戦争中なのですが、この映画は非常時の割にはユーモラスで呑気な恋愛物語になっています。

本編の中で時代を感じさせるエピソードといえば、会社の面接官が「時勢柄、自粛せんといかんのでね」というセリフがあったり、アパートの管理人の世間話に「心中や自殺が流行るねえ」という悲観的なセリフが入るくらいです。

ただ妹と兄たち3人が行った映画に映し出されていたのが、1936年のナチス政権下のベルリンオリンピックであった事だけが、妙に浮き出て見えたのが印象的でした。

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