「暖流」は、大病院の内部対立や医者と看護婦の男女問題という、今では定番のようなテーマの草分け的な映画です。
戦前の映画とは思えないドラマチックな演出が面白く印象的でした。
色々な意味で、昼ドラの走りかもしれないと思います。

大げさな音楽が流れたり、心情を表す“しぐさ”が入ったりするのは、この時代としてはかなり実験的だったのではないでしょうか。
女同士が団結したり、いけ好かない男が悪漢のように描かれるという極端さも、ドラマ仕立てで興味深いものがあります。

ただこの映画はエンタメ性が高いという一方で、人の上に立つ者の厳しい現実を描いている所も見逃せません。
本物のお嬢様というのは、決して幸せなだけの存在では無いようです。

気高く美しい令嬢、啓子(高峰三枝子)

啓子は大病院の院長令嬢です。
この病院は、内部対立によって経営が悪化しているのですが、啓子の父である院長は病気で亡くなってしまいます。
院長の亡き後は、学生時代に面倒を見ていた日疋(佐分利信)を秘書に迎えて病院の経営の立て直しを依頼していました。

啓子には病院内の医師との見合いが決まっているのですが、どうも相手の事が気に入っているようには見えません。
野心丸出しの相手に対し、ちょいと焦らしたりしている仕草が憎いです。

看護婦の石渡(水戸光子)と学生時代の友人で、今は身分の違う境遇になってしまった訳ですが「仲良くしましょうネ」と友情を確かめ合ったりします。

実力派でイケイケの日疋(佐分利信)


院長の亡き後、日疋はやり手で強気の改革者として、さっそく組織や財務にメスを入れ始めます。
院長の親族や病院内の重鎮を敵に回す事も一向に恐れない毅然とした態度は、見ていて惚れ惚れします。

看護婦の石渡をスパイに仕立て、組織の内情を探らせたりもします。
ところが、あくまでも業務上の付き合いとしか見ていなかった石渡は、日疋を好きになってしまいます。
この頃の看護婦という職業は、吹けば飛ぶような危うい立場だったらしく、やたらと“頼る人が居ない”という表現が出てきます。
そういう中で、日疋のたくましさは輝いて見え、“二人の秘密を持つ”という行為は甘い喜びとなってしまったようです。

これに気付くや、日疋はたちまち逃げ腰になり、石渡を遠ざけるのでした。

本物のお嬢様は辛いもの・・・

啓子の縁談は、相手が看護婦に手を出していたという事実の発覚でお流れになります。

日疋は密かに啓子を想っており、これを機にプロポーズの体当たりを断行します。
実は啓子も、縁談の相手よりも日疋が気に入っていたようです。
ここでも啓子は相手を焦らしますが、密かに嬉しそうな様子です。

そうこうしているうちに、石渡が突然病院を去るのを啓子が知る事になります。
啓子が聞いてみると、石渡は日疋に協力しているうちに好きになってしまい、相手には拒否されてしまったのだと言います。
啓子は石渡の想いが真剣なのを理解し、日疋にプロポーズされている事は伏せ、石渡に協力する事を誓うのでした。

1939年公開

この映画の凄いところは、あまり古さを感じさせない所です。
現代のエンタメのキャッチーな演出は、この辺りから始まっているのかもしれません。
飽きさせない展開や効果、キャラの分かりやすさやオチがハッキリしている所など、今から見ても完成度が高いと思います。
病院の勢力争いというネタも、この頃では斬新だったのではないでしょうか。

今と違うなと感じた所は、啓子とその両親の意識の高さでした。
昔は人の上に立つ人の方が苦労が多く、それ故か人格も優れていたんだなぁ、という事を感じさせるエピソードが心に響きました。

コメント

    • bakeneko
    • 2019年 4月 21日

    1.ラストシーンで啓子は、本当は日疋が好きだったと言ったけれど、ならば、なぜ、あの医者の男と結婚することにしたのか?.
    父親の勧めに従ったのならば、なぜ父親が勧めたのか?.

    2.日疋は息子の存在は病院再建のガンだと言ったら、父親も了承した.
    息子は病院再建に全く協力しないだけでなく、遊び人で病院の資産を食いつぶしていた.

    3.父親の依頼に従って母親の生活を保証するために、日疋は苦労して病院の株券を確保し母親に渡した.
    けれども息子は金が欲しくて、横領だと裁判を起して母親の株券を奪おうとした.
    母親は「親子で骨肉の争いはしたくない」と言って、株券を息子に渡す道を選んだのだが、息子が母親の生活の面倒を見る可能性はなく、おそらく株券はお金のために売り払われて、病院の経営権が他人の手に渡ってしまうことになるのではないのか.

    日疋は働きもしない息子に病院での地位を与えて、生活に困らないだけの給料を支払ったのに、浪費の激しい息子は更にお金を欲しがった.
    日疋が息子にお金を渡してはいけないと強く言ったら、『他人の家庭内の出来事に干渉してくれるな』と、母親と啓子は逆に怒り返したけれど、このまま行けば破産しかない家庭を救った日疋の苦労を、母親と啓子は分っているのか?.

    4.ラストシーンで日疋は啓子に、こんなことを言っているはず.
    ぎんとの結婚には喜びがあるが、あなたとの結婚には喜びがない.

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