「あの手この手」は、ちょっとしたインテリである中年夫婦の「些細な日常」が描かれた、楽しい物語です。

「男女同権」思想が強化され、女性の選択肢が広がってきた頃の作品なせいか、出てくる女性は強権的なキャラばかりです。

それでも欧米ほどヒステリックではなく、ちゃんと旦那さんのご機嫌を損ねないように気を配る優しさを わずかに残している所は、日本らしい気がしました。

知的で活動的な奥さま、近子(水戸光子)

女学校の講師をしている近子夫人は、仕事の傍ら社会活動までこなす、近代的で厳しい性格の奥さんです。

新聞の身の上相談コーナーをヒットさせたり、婦人同盟役員、家事審判所調停員と忙しく飛び回る彼女にとって、夫は少し頼りない存在のようです。

万年助教授である夫の鳥羽(森雅之)は、近子を「奥さん」と呼び、完全に頭が上がりません。

女中までが近子の権威の力を借りて、鳥羽を夫人より格下に扱うという有様です。

鳥羽は、小説家になりたいという夢を持っています。
最近では執筆活動も軌道に乗って、ぼちぼち収入も入って来るようになりました。
そこで執筆活動に専念したくなり、教職を辞めようかと思っているのでした。

ところが近子は反対で、やんわりと彼を思い留まらせようとしています。
近子が鳥羽に大学を辞めて欲しくない理由は、近所のドクターとの会話で明かされます。

「作品は、それを執筆する人物を見れば、自ずとわかってくるものです。
鳥羽には、小説家になる力量は見込めません」
と、面と向かって本人には言えない事を、そっとドクターに洩らすのでした。

近子は自分のエゴからではなく、鳥羽が後で人生に躓かないように
助教授の職を手放してしまう事を戒めているのです。
確かに、夫よりも一枚も二枚も上手な妻という感じです。

水戸光子さんの出演している映画


近子の上を行くワンマン娘、アコ(久我美子)


ところが、この無敵に見えた近子にも、強力なライバルが登場します。

近子の亡くなった姉の娘であるアコが、突然 鳥羽家に訪問してきて、そのまま居座ってしまうのです。

このアコちゃんは男っぽい性格で、オヤジのような笑い方をしたり、やる事なす事が豪快で、周りの人たちをハラハラさせる娘です。
ところが、このアコちゃんに叔父への恋心のようなものが芽生えはじめ、何かと近子と張り合うようになります。
頭が良くて行動力のあるアコにとっては、同年輩の男子などはまるで眼中に無いようです。

アコは、何とか鳥羽の関心を妻から奪い取ろうと策を巡らせます。
ところが その手段が突拍子もなくて、大人たちは完全に翻弄されてしまいます。

鳥羽を行きつけのバーのマダムと接近させようとして、ピクニックに連れ出したまま自分は消えてしまったり、お醤油を一合イッキ飲みして病気になり、鳥羽家に留まろうとしたりします。

ただこの企みは、気の弱い鳥羽を怯えさせてしまい、アコは田舎へ送り返される事になります。

ところが近子の母親は、近子やアコよりも更に「強者」なのでした。
この義理の母親に「アコを、鳥羽家で花嫁修業させて欲しい」と頼まれてしまい、大人しい鳥羽に勝ち目はありませんでした。
アコやこの義理母の登場で、相対的に近子が優しく見えてくるから不思議ですww

久我美子さんの出演している映画


夫婦の危機!?

アコは全面的に鳥羽の執筆を応援し、近子を圧倒し始めます。
そしてある時、近子が鳥羽の作品に一度も目を通していなかった事が発覚して、アコにチャンスが訪れます。

鳥羽は、近子が自分に小説を断念させようとしていると感じ、すねて家出をしてしまうのです。
アコは自分が勝利したと思い、鳥羽の家出を激励します。

一方、隣人のドクターは、近子の相談を受けて
「夫婦といえども、お互いに触れてはいけない領域がある。
特に頭脳に関する事は・・・。
私が説得してあげようか?」
と申し出たりする様子は、ドクターと近子の知的水準が近い事を表しているように感じます。

結局、鳥羽は自分で自分の行動に反省してしまい、その日のうちにあっさり帰って来ます。
この些細なケンカを経て夫婦の絆は深まり、アコは負けを認めるしかありませんでした。

市川崑さんの監督映画


1952年公開

この映画の監督は、後に「金田一耕助シリーズ」を手掛ける事になる市川崑です。
昔は、こんなモダンでコミカルな作品を作っていたのか!という意外性も、ひとつの楽しさでした。
脚本を、市川氏の奥さんである和田夏十が書いているという所も、興味深いものがあります。

この作品が作られたのは「サンフランシスコ平和条約」が発効した年で、ようやく連合国による占領に終止符が打たれた頃です。

映画で「学生が赤い旗を振り回している」という表現が出てきましたが、現在の陸上自衛隊の前身である「警察予備隊」について再軍備に反対した「血のメーデー事件」というデモが起こった頃でした。

本編に出てくる「水素爆弾」や「産児制限」「混血児問題」というキーワードも、当時の時事問題を現しています。
女性がこういう話題を口にするというのは、ちょっとそれまでの映画では見られなかった光景だと思いました。

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