「雪子と夏代」は、若くして未亡人となった女性二人の友情の物語です。
男性が不在の女性中心の世界が描かれていて、一見穏やかに見えても非常事態に作られた映画なのだなと感じるような作品でした。
そのせいか、全体的にのっぺりしていて窮屈な印象を受ける作品でした。
人の事を思いやるあまり、苦しんだり自分の感情を抑える登場人物たちの姿は、個人の自由が重んじられる今の感覚からすると、少し滑稽ですらあります。
でも一方で、本当は現代でも こういう気持ちは心の奥底に存在しているような気もします。
自立を目指す気丈な未亡人、雪子(入江たか子)
雪子は、夫が戦死したため若くして未亡人となってしまいました。
それでも彼女は、誰にも頼らず一人で行きていこうと必死になっています。
決して弱音を吐かず、思った事は率直に言う積極的な女性です。
義理の妹・田鶴子とは、彼女が子供の頃から同居していたらしく、本当の妹のように大切にしています。
彼女は田鶴子を想うあまり厳しく接してしまうのですが、それが田鶴子にとっては口うるさく、どこか支配されているような息苦しさを感じてしまうのでした。
おまけに田鶴子は、雪子が洋裁店を開いて自活しようとしている事が気に食わない様子です。
夫が生きていた頃は裕福だったので、雪子に商売などされるのは体裁が悪いのです。
でも夫には充分な蓄えなど無かったため、何かしなければ生活していけません。
雪子は田鶴子に心配させたくないために、その事を隠して強がっているのです。
人の気持ちが分かる気弱な未亡人、夏代(山田五十鈴)
雪子の学生時代の親友・夏代も、夫を亡くした未亡人です。
彼女はあまり自己主張ができないタイプで義理や人情のプレッシャーに弱く、その分かたくなになってしまう所があります。
夏代にはまだ小さい男の子がいて、今は実家に身を寄せています。
ただ実家はすでに長男の代になっていて、再婚の話を持ち込まれたり、子供を義兄の跡継ぎに貰いたいなどと言われ、だんだん居づらくなって来ているのでした。
夏代は息子と離れ離れになるくらいなら独立するつもりなので、義兄の申し出にとても怯えています。
ところが雪子からすると夏代の婚家先はとても良心的で、本当に子供の事を考えての提案だから恐れる事はないと言います。
気が弱い夏代にとって雪子の強さは頼もしいものがあり、夏代は雪子の家に居候させてもらって洋裁店で働き始める事にしました。
結局 息子の運命は義兄の判断に委ねられる事になりますが、今のところ夏代には子供の養育は無理だと判断されてしまうのは目に見えています。
それでも夏代はメソメソするしか能がなく、何となく時間が過ぎていきます。
人の為だからこそ発揮できる力がある
ある日雪子は、婚家先の叔父の家に呼ばれます。
話は田鶴子の縁談の事でしたが、相談ではなく話は既に決まっていて、雪子には報告しているに過ぎません。
叔父は雪子を他人行儀に扱い、田鶴子の姉だとは認めていない感じです。
雪子は立場上 叔父に逆らう事は出来ず、縁談の話は承諾するしかありませんが、せめて当日は自分も立ち会わせて欲しいと願い出ます。
この頃のお見合いというのは「本人には内緒で」というケースもあったようで、田鶴子は何も知らずに叔父たちと芝居見物に出かける事になります。
お見合いの当日、雪子は運悪く体調を崩してしまいます。
それでも彼女は田鶴子の事が心配で、仕方なく信用のおける夏代に代わりに行ってもらう事にしました。
ところが、この事がトラブルの原因となってしまうのです。
見合い相手は夏代の方が気に入ってしまうし、田鶴子は芝居見物と偽って見合いをさせられたのを、雪子の仕業だと勘違いしてしまいます。
頭にきた田鶴子は、雪子の留守中に家出して叔父の所へと行ってしまうのでした。
さすがの雪子も、今度ばかりは落胆してやる気を失ってしまいます。
ところが、このピンチを救ったのは夏代でした。
夏代は田鶴子がこっそり荷物を取りに来たのを見つけて、お説教をかまします。
積極性の無い夏代は自分の事となるとてんで駄目なのに、人の事となると思わぬパワーを発揮するのでした。
彼女は、雪子が田鶴子をどれだけ大切にしているかを熱く訴えます。
「あのお見合いの話だって、叔父さんから出た話なのよ。
それを あなたは変な風に誤解なんかして、本当にバチが当たるわよ!」
と今までにない強い調子で叱り飛ばし、ようやく田鶴子は雪子を誤解していた事に気付きます。
一方で夏代の子の養育の問題は、雪子が先方へ出かけて行って話を上手くまとめてしまいます。
義兄の方も雪子がしっかりしているのを見て、安心して任せても良いと判断したのかもしれません。
人々が足りない部分を補い合っていく、調和の取れた世界を見せてもらった気がしました。
1941年公開
戦前の洋服は、生地を買って仕立て屋にあつらえさせるものだったようです。
他の映画でも、よく生地を購入して自分で縫ったり、仕立て屋にオーダーしている様子が描かれています。
洋裁は、当時では女性ができる数少ない仕事の一つだったみたいです。
当時は女性が仕事や商売をする事自体に偏見があったようで、雪子の義理の妹は彼女が店を営業するのを極端に嫌がっています。
雪子の働き方も素人くさくて頼りなく、少しづつ顧客を確保する様子も描かれてはいますが、けっこう風前の灯火という感じです。
映画では、親友同士で励まし合いながら、強く生きて行こうとする女性が「美しく」は描かれていました。
ただ、やはりお嬢様育ちの未亡人二人の存在はどこか心もとなく、やはりまだ男性の時代だったな・・・という気がしました。
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