「蜂の巣の子供たち」は、戦後の混乱した社会で、戦災孤児たちと孤独な復員兵が行動を共にするという物語です。

ドキュメンタリータッチでテーマもシビアな為、取っ掛かりはしんどいのですが、一度見始めるとどんどん引き込まれてしまう「静かな」緊張感を持った映画でした。

終戦から3年後の荒廃した風景が生々しく映し出され、演者も役者っぽくないので、まるで記録映像を見ているような臨場感があります。

特に印象的だったのは、敗戦から間もない混沌とした社会で、身寄りもない復員兵がただ独り、信念を貫き通す姿です。

そして親を失った戦災孤児たちが彼に影響を受け、誇りを持って生きる事を学んでいく展開には、日本の底力を感じます。

戦後の映画には、倫理が乱れた乾いた作品が多くを占める一方で、誇りを保ち続けた人もいた事を今に伝えてくれます。

さまよえる戦災孤児たち


電車が乗り入れてくる下関駅で、孤児たちがスリや置き引きをしようと「カモ」を物色しています。

ところが電車は引揚げ臨時列車で、下車してきたのは軍服にリュックを背負った復員兵たちでした。
どうやら浮浪児たちには「復員さんを狙ってはいけない」というルールがあるようで、子供たちは「なんだ復員さんか」とガッカリします。

皆が東京行きへの電車に乗り換える中、一人の復員兵がこの駅に降り立ちました。
浮浪児が彼に近づくと、兵隊さんはパンをくれます。
これをキッカケに、浮浪児たちと復員兵は言葉を交わしますが、どうやらこの復員兵もかつては「グレて」いたという事がわかります。

彼も家族がいないらしく、感化院で育って そこから兵隊に行ったのでした。
そしてこの帰る場所のない復員兵は、働きながら感化院へ戻ろうとしている所です。
こんな単なる行きずりの関係ですが、子供たちは ちょっとこの復員兵に興味が沸いたようです。

この浮浪児たちには闇屋の親分みたいなオヤジがついているのですが、子供たちは徐々にこのオヤジに見切りをつけ、復員兵の後を追うようになるのでした。

カオスの中でも信念を保つ、孤独な復員兵(岩波大介)


復員兵は無口で、特に子供に働きかけた訳ではないのですが、子供たちは勝手に彼について来ます。

彼は材木の運搬を手伝いながら移動したり、ある時は塩田の地ならしの作業をして日銭を稼ぎながら、感化院を目指しています。
一方 子供たちは泥棒や闇屋をしていたので、最初は「割りに合わない」と言って仕事をしようとはしません。

ところが復員兵の行動を見ているうちに、子どもたちは だんだん彼の真似をするようになります。

そして報酬としてもらったお芋を食べたとき、子供たちは「このお芋美味しい!」と驚きます。
それを見て復員兵は
「芋が美味しいんじゃない、一生懸命働いたから美味しいんだ」
という、子供たちにとっては聞き慣れないような話をします。

彼は最初、子供たちを世話するつもりなど特にありませんでした。
ところが、仕事を放棄して逃げ出す子を気にかけない彼に対し、他の子が言った
「あのままにしておいたら、警察の浮浪児狩りに捕まってしまう」
という言葉に、彼は逃げた子を放っておけなくなります。

こうして復員兵は、だんだん浮浪児たちと行動を共にするようになり、子供たちは彼の中に「堅気の生活」というものを見出して行きます。

浮浪児たちは、スリや闇屋をやっている頃は、お互いにただツルんでいるだけの仲でした。
足手まといな奴は放っておくし、困っている子や弱い子を助けたりする事は無駄で、常に自分の利益を優先していました。

ところが復員兵の行動を見て、子供たちは彼が何か違った価値観を持っている事を直感で理解します。
それだけでなく、この不思議な共同生活は、彼らにお互いへの慈しみの心を芽生えさせて行くのでした。

本当の仲間になっていく子供たち

一番年少のヨシ坊は、サイパンからの引揚げ者で、お母さんを船上で亡くしています。

この子はまだ幼く、母親の死が実感として理解できません。
海のイメージと母親がリンクしているようで、とても海に執着があり、やたらと海へ行きたがります。

ところがこのヨシ坊が、重い病気にかかってしまいます。
そしてこんな状態なのに、仲間の子に「海が見える所に連れて行ってくれ」と言って聞きません。
そんなヨシ坊の願いがあまりにも切実なので、頼まれた子は危険だと分かっていながら願いを聞いてあげたくなります。

海が見える山は険しく、小さな子供にとってヨシ坊をおぶって山を登るのは、とても大変な事でした。
ところがヨシ坊の願いを叶えてあげたい一心のわんぱく小僧は、歯を食いしばって山の頂上まで登りつめてしまいます。

それなのに、ヨシ坊は海を見る前に死んでしまうのでした・・・。
ヨシ坊をおぶってやった子は自責の念にかられ、他の子たちも仲間を失った悲しみに打ちひしがれます。
かつては単なるスリ仲間だった子供たちは、いつしか強い絆で結ばれた仲間になっていたのでした。

1948年公開

この映画は「みかへりの塔」という映画のスピンオフのような映画です。

主人公の復員兵が「みかへりの塔」出身という設定なので、彼の芯が強い様子を見ていると そこがどんな所だったのかが気になってしまいます。

敗戦3年目の混乱で生活もモラルも荒廃した中では、信念を貫くのは至難の業だと思うのですが、この復員兵は不平も泣き言も言わず、ただ静かにやるべき仕事に打ち込みます。

孤児で感化院で育ち、やっと大きくなったら兵隊に取られ、しまいには敗戦という憂き目に遭っても冷静でいられる精神力はどのように培われたのだろう?と興味が沸いてきました。

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