「こんな私じゃなかったに」は『義理人情ドラマ』と『学園爽やかラブコメ』をミックスしたような、ちょっと不思議な感覚の物語です。

印象に残ったのは、何といってもヒロインが披露する日本舞踊の美しさと、キャッチーでエモーショナルな主題歌です。

大学の研究生が芸者になるという突拍子もないストーリーですが、ヒロインの演じ分けが凄くてとても魅力的でした。

白衣がよく似合う才女、千秋(水原真知子)


千秋は、理学部の応用化学の研究生です。
知的で真面目な感じの女性ですが、じつは日本舞踊が得意という、ちょっと変わったキャラクターです。

優秀で将来も有望そうではありますが、ちょと家庭に問題を抱えています。

千秋の姉は元芸者で、今では踊りの師匠をして千秋の学費を負担しているのです。
この姉には かつて横山武という夫がいたのですが、相手の実家に無理やり別れさせられ、一人で子供を育てています。

千秋は常々その事が心理的な負担になっていましたが、あるとき姉が負債を抱えている事を知ります。
姉の元夫である横山武は、今では養子に出されていて消息はわかりません。
仕方なく千秋は、横山の実家に援助を申し出ますが、追い返されてしまいます。

姉にばかり負担をかける心苦しさから、千秋は思い切った行動に出ます。
姉の知り合いに頼んで、アルバイトとして芸者をする決心をするのです。

お茶屋の上客、矢島(山村聡)

アルバイトとして芸者に出た千秋のいるお茶屋に、矢島という男性が訪れます。

いかにも紳士的な頼れる大人の男といった風で、地位も高そうです。
千秋が横暴な客に責められて困っている時など、さりげなく助けてくれたりします。

千秋は意を決してこの世界に入ったものの、結局お客や雇い主の要求に答えることが出来ません。
学校にもバレ始めているらしく、早々にこの二重生活も破綻が見え始めています。

おまけに相思相愛だと思っていた男性が政略的な結婚をするというショックな出来事があり、自暴自棄のようになってしまった時、矢島がやさしく慰めてくれるのでした。

矢島の意外な正体

千秋は、急激に矢島に近づいていき、結婚まで考え始めます。
色々あって将来も不安になり、たくましくて頼りがいのある矢島に寄り掛かりたくなったのでしょう。

ところが、矢島は姉を捨てた横山武だったという事が発覚します。
養子に出たので、名前が変わっていたのです。

千秋は最初、怒りとショックで絶望しますが、横山は親には反対されたものの姉をずっと探していたという事が分かります。
念願の再会を果たした二人は晴れて復縁する事が出来、千秋も学生に戻れる事になりました。

1952年公開

この頃では、花柳界のしきたりも、だいぶ乱れているような印象を受けました。

お客や雇い主、そして雇われている女性たちの認識がみんなバラバラで、なんだかよくわからない世界です。

新憲法と従来の習わしの調整がつかず、秩序が定まらない時代だったという事かもしれません。

そしてヒロインの価値観の不安定さも、見ていて混乱してしまいました。

ヘンに堅苦しいかと思えば、安易に財力のある男性に依存しようとしたりする「破れかぶれ」のような行動に、全く共感できませんでした。

知的な感じのヒロインなのに、お金の問題となると急に思考停止状態になってしまう様子には、何とも悲しいものがあります。

この映画は主題歌が個性的で、古風なのにポップな、楽しい感じが絶妙にマッチしていました。
当時かなりのヒットを飛ばしたらしい「ゲイシャ・ワルツ」という曲でも有名な、神楽坂はん子さんが歌っています。
後で知りましたが、本人もチラッと登場していました。
言われてみれば、一瞬の登場ながら、視線の強さが印象的だった女性がいた事を思い出しました。

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