「朝の波紋」は、商社で活躍するOLの、迷いと成長を描いた物語です。

時たま映し出される、戦後の荒廃した街の様子や、浮浪者の姿が印象に残りました。

そして食いっぱぐれを回避した人たちも、脱落すまいと必死で競争にあけくれる様子は、今に通じるものがあると思います。

ところが無味乾燥に思えるビジネスの世界ですら、英会話が堪能とか、どれだけライバルを蹴落とせるかなどでなく「いかに人の心が理解できるか」という事が、本当は大切なのかもしれないと思うような物語でした。

漠然とした向上心を持て余す娘、篤子(高峰秀子)

篤子は、曲がった事が嫌いな勤勉で優秀な会社員ですが、どこか人生への「迷い」を感じているように見えます。

彼女は婚約者を戦争で亡くして以来、一人で身を立てるために始めた仕事が、だんだん面白くなってきた所です。

小さな商社で社長秘書をしていますが、社長にその力量を見込まれ、部長からはライバル視されるほどの存在になっています。

彼女には、なにかと篤子を励まし応援してくれる、野心家の梶(岡田英次)という同僚がいます。
彼は同僚としては頼もしいのですが、どこか篤子のカンに触るところがあります。

そして梶の持つ貧しい人への蔑みや、逆に強い者への反発といったコンプレックスを見るにつけ、篤子は自分の人生には何かが欠けているような気がしてくるのでした。

篤子の家には、健ちゃんという小学生の男の子がいます。
彼のお父さんは戦死し、お母さんは住み込みの仕事をしているので、親類である篤子の家に預けられているのです。

ところが健ちゃんが拾ってきた野良犬の「ペケ」が、問題を起こし始めます。
首輪で繋がれるのを嫌がるペケが、近所の家から靴をくわえて来てしまうのでした。

実力主義に背を向けるマイペースな青年、二平太(池部良)

二平太は、ちょっと浮世離れした所のある、ひょうひょうとした青年です。

社会人なのに健ちゃんと友達になったりして、ワンちゃんのしつけに取り組む姿などは、少年の情熱に負けていません。

篤子とは健ちゃんを通じて知り合いになりますが、彼女の自分にはない たくましさとガッツに魅了されて行きます。

彼の勤め先も 商社ですが、二平太の方は富士商事という大会社です。
ところが二平太の営業成績は振るわず、彼は商社の社員でありながら、英会話が苦手という弱味も抱えています。

そんな彼は、同僚が結核を患いながら生活の為に出勤し、命を縮めている様子に心を痛めています。
そして何とか自分の立場を利用して、結核の治療薬「ストレプトマイシン」の輸入に向けて独自に動き始めるのでした。

あるとき二平太は、ヒアリングの間違いをして取引先との約束をすっぽかしてしまうという、致命的なミスをしてしまいます。

そして困ってしまった取引先を助けたのは、偶然ながら篤子でした。
ちょうど社長が不在の時で、商品はこれまで取り扱いのない「宝飾品」でした。

それでも篤子は、独断で注文を引き受ける事にします。
彼女は、弱小商社が発展するには挑戦が必要だと思い、その点で梶と意見が一致します。

ところが取引が成立した後で、問屋が納品を断ってきたから大変です。
じつは富士商事が手を回し、篤子たちの取引を妨害している事が発覚します。

篤子は直接 工場へ赴いたり、問屋の社長を説得しますが、相手は「富士商事に商品を納めさせてもらっている」立場らしく、まったく頭が上がらない様子です。
ところが梶が応援に駆けつけ、ふたたび二人が説得を試みると、その情熱に心を動かされたのか社長はOKを出してくれるのでした。

一方で、こういう富士商事の手段を選ばないやり方に、篤子と二平太の関係にはヒビが入ってしまいます。

そんな中、篤子は梶からプロポーズを受けます。
梶は以前から独立しようと目論んでいて、篤子についてきて欲しいと願うのでした。

篤子が、人生に求めていたもの

会社では取引を成功させ、梶からプロポーズされる中で、篤子はビジネス的成功を目指すのかと思いきや、なぜか彼女は浮かない顔です。

そんなとき、健ちゃんが家出をしてしまいます。
家ではペケが近所の鶏を殺してしまい、母親が健ちゃんにペケを捨てて来るように命じていたのでした。
ペケを捨てる事ができなかった健ちゃんは、家を出るしかない気持ちになってしまったようです。

二平太は、会社を休んで健ちゃんを探してくれたので、二人はギクシャクしながらも一緒に健ちゃんを探します。

二平太は、ビジネスの面では篤子を尊敬していますが、健ちゃんに接する態度には批判的でした。
そもそも野良犬に「ペケ」というダメ出しのような名前を付けてしまう冷たさや、健ちゃんがペケを可愛がる寂しさが分かっていないと言います。

そして、篤子が義務感で健ちゃんを家に置いているような心境を、真っ向から否定するのでした。
篤子は図星を突かれたようで、気を悪くします。

翌日、会社では二平太に良いニュースが舞い込んできます。
二平太の活躍の結果、日本で発の「ストレプトマイシン」の受注に成功したのです。
二平太は同僚だけでなく、多くの結核に苦しむ人を救うという「成功」を収めたのでした。

一方篤子は、かつて商品を納めてくれた問屋の社長の来訪を受けます。
聞けば、取引を妨害していたのは二平太の同僚であり、二平太に切に頼まれて納品に承諾したのだと言います。

篤子は、何かモヤモヤしていた梶との将来を打ち消し、二平太と行く道を選ぶのでした。

1952年公開

女性は結婚相手を選ぶという大事な局面で、ものすごい直感力を働かせるのかもしれません。
篤子はどこか梶への違和感はあったものの、決め手となったのは、人として深みのある二平太の頼もしさでした。

二平太は、戦後はどちらかと言えば敬遠されがちだった、保守的なタイプのキャラだと思います。
一方で梶は、ガッツと野心に溢れ、女性の社会進出も大歓迎のリベラル派という感じです。

物語では二平太に軍配が上がりましたが、当時映画を見ていた女性はどちらの男性に魅力を感じたのだろう?というのが気になる所です。

日本文化は二度、大きな危機を迎えました。
一度目は植民地支配への抵抗としての積極的な欧米化、そして二度目はボコボコにされて後の、有無を言わさぬ文化の流入です。
これはやっぱり、二度目の方が強烈だったと言わざるを得ず、ほとんど無意識のうちに浸透して行った感じだと思います。

梶は、贅沢な宝飾品が貧しい女工さんによって製造される事に対して
「俺たちが、あの女たちを食わせてやっているようなものだ」
と言いましたが、それはアベコベでしょうとツッコミを入れたくなります。

女工が低賃金で労働するから、商社が上前をはねて利益を手にする事ができるのに、なぜか立場が逆転してしまうんですね。

高度経済成長気のときは、日本人が生み出した富は日本人に還元されていたように思います。
ところが今はまた、どこかへ流出している感が強くなってきました。
結局グローバル経済というのは、とんでもない格差を産む地獄のシステムだという事が、目に見えて分かってきた気がします。

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