「お茶漬の味」は、階級やものの考え方の違う夫婦が、危機を越えて愛情を育んでいく物語です。

初めてのケンカの後でお互いの想いを知る場面では、いい年をした二人が急にラブラブになってしまい、ちょっと可愛いものがありました。
そして妻がいったん夫の「庶民的な愛し方」が分かると、不満もわだかまりもスッと消えて、明るく強くパワーアップしてしまうのには驚くものがあります。

本当の愛情とは、情熱的だったりドラマチックだったりするよりも、もっと深くて穏やかなものだと気付かせてくれます。
そして夫婦が深く理解し合うにはケンカも必要で、時にはぶつかる事も大切なのかもしれません。
相手を変えようとするのではなく、理解を深める事こそが幸せになれる道なのだと思いました。

女王様のような妻、妙子(木暮実千代)

妙子は上流の家庭に生まれたお嬢様で、お見合いによって現在の夫・佐竹(佐分利信)と一緒になりました。

佐竹は田舎育ちの庶民派で、妙子とは生活習慣が随分と違うようです。
妙子は夫のご飯の食べ方やタバコの銘柄などが気に食わないし、どこか夫を蔑んでいるようにも見えます。

毎日が面白くないようで、同じような有閑マダムの友人たちと温泉旅行に出かけたりします。
ただ一応は泊りがけする為の口実が必要なようで、同窓会があるとか友人が病気になったなどと下手な嘘を言う姿は、まるで子供のようです。

こんな優雅で呑気な有閑マダムの妙子ですが、彼女はどこか満たされない様子です。
友達たちと冗談で夫の悪口を言い合っているうちに、本当に機嫌が悪くなってしまったりします。

夫の佐竹はおおらかだけど無口な人で、いくら妙子が文句を言っても、嘘をついても、ほとんど反応を示しません。
妙子の下手な嘘に気が付かない筈はないのですが、何も言わないところを見ると「奥さんに無関心なのか?」と思うくらいです。

木暮実千代さんの出演している映画


叔母夫婦を見て学習する姪、節子(津島恵子)

妙子の姪・節子は、妙子にとても従順です。
そして一緒に映画を見に行ったり、妙子が女友達と旅行に出かける時もお供するくらい仲良しです。

一見大人しい性格に見える節子ですが、彼女にも確固たる意思があります。
節子はいま親に見合いを強制されていますが、とことん反発をしています。
妙子にも注意されてしまいますが、今度ばかりは叔母に従う訳にはいきません。

そして しつこくお見合いを迫る妙子に対して、とうとう節子は本音を漏らさざるを得なくなります。
節子は「叔母さんみたいになりたくない」と言います。
彼女から見ると妙子は幸せそうには見えないし、自分は友達と夫の悪口を言い合わなければならないような人とは結婚しないと主張します。

そんな節子は、佐竹の甥・岡田(鶴田浩二)と知り合い、二人で遊ぶようになります。
節子のお見合い否定論に対し、ちょっとリアリストの岡田は「恋愛だろうがお見合いだろうが、相手次第」だと言います。

確かに彼女は、妙子たちのせいでお見合いに対する悪い先入観が植え付けられてしまったのかもしれません。

津島恵子さんの出演している映画


姪が巻き起こした波紋

節子は断固としてお見合いを断り続けますが、親に強く叱られてしまい、仕方なく抵抗を止めました。

では諦めたのかと思いきや、彼女はお見合いの途中で脱走してしまいます。
そして佐竹の所に来て、岡田と競馬に行こうとしている所に合流しようとします。

佐竹は立場上 節子を説得して連れ戻しますが、彼女はまたもや抜け出して来てしまいます。
諦めた佐竹は、節子に「奥さんには黙っていておくれよ」と口止めするのでした。

ところがその後、お見合いの時に佐竹が節子と一緒に遊んでいた事が、妙子にバレてしまいます。
厳しく追求する妙子に、佐竹はつい「無理に見合いさせても、俺たちみたいな夫婦がもう一組できるだけだよ」と本音を漏らしてしまいます。

妙子は初めて佐竹の反撃に会い、ショックを受けます。
しばらくは口を利かない日々を過ごしますが、とうとう家出同然のように一人で遠くへ行ってしまいました。

そんな時、会社では佐竹が南米へ転任する事が決まります。
二人はすれ違ったまま、離れ離れになってしまうのでした。

1952年公開

妙子のお父さんは佐竹の会社の社長と対等な関係のようで、この夫婦は身分が違うという事が伺えます。
どうやら佐竹の甥も奥さんのコネで入社できたようで、これでは奥さんに頭が上がらない筈です。

違うのは身分や立場だけでなく、二人の住む世界は「娯楽の違い」でも表現されています。
妙子の方は歌舞伎や宝塚歌劇、旅行にナイター観戦などで、佐竹側はラーメンにとんかつ、パチンコ、競馬という感じです。

中でも最も気になるのは「習慣」の違いで、妙子が一番ガマンがならなかったのは、佐竹がご飯に味噌汁をかける事でした。
妙子は佐竹が「猫飯」にするのを見るやキレ気味になり、すごい勢いでまくし立てて食事中に中座してしまいます。

佐竹がシュンとなって女中さんに救いを求める場面は、彼女の方が身近な存在のように映るのでした。

小津安二郎さんの監督映画


【ちょっと余談】有閑マダムたちの遊び場を見つけた!

ブルジョアのマダムたちが、夫に嘘をついて出かける修善寺の宿が、いまも現役の旅館として存在していました。

改築はされていますが、やっぱり純和風の作りで、雰囲気はそのままな感じです。

奥様たちが鯉にエサをやっていた池も、まだありました♪
映画で見る印象よりも大きな池で、宿じたいも15棟もある大きな旅館でした。

この「新井旅館」は、明治5年から続くという重厚な歴史を持っていて、建物の多くが国の登録有形文化財になっているそうです。
個人的には「渡り廊下」が気に入ってしまいました。

映画にチラっと映っていた、塔のある和洋折衷な建物も健在です。
マダムたちが泊まっていたのは準特別室 桐の棟の1階のようです。
旅館に電動アシスト自転車のレンタルがあったので、ちょっと遠くまで散歩に出かけても無事に帰ってこれそうです。

驚いたことに、お風呂が半地下になっていて、池の鯉が水槽のように見れる仕掛けもあります。
芥川龍之介がお気に入りだったというエピソードがあったりして、なかなか楽しそうです。

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