「早乙女家の娘たち」は、両親を亡くした姉が、弟を子供のように育てようとする物語です。
一家の大黒柱として責任感を発揮する次女と末の弟は、姉弟というよりは まるで親子のようです。
ところが姉が自分の事は顧みず弟を心配すればするほど空回りし、彼を追い詰めているように見えてしまいます。
むしろ自分の幸せを大切にする長女や、弟を信じて大きく構えている学校の先生の存在の方が、むしろ彼の救いになっているようです。
大切な人を守りたかったら「心配」するのではなく、あくまでも信じて何かあれば責任を取ってやるくらいの気概が本当の愛情なのかな、などと思いました。
弟の世話に生き甲斐を見出す姉、松子(香川京子)
松子は27才ながら、年齢の割にずいぶん落ち着いているというか、ちょっと世帯くさい感じです。
というのも松子の家は両親が亡くなってしまったため、彼女が一家の大黒柱的な存在にならざるを得なかったという経緯があります。
早乙女家は4人の姉妹と中学生の男の子・鶴亀(つるき)が一人という構成です。
長女は結婚してしまったので、今は松子が一番年長です。
松子は家事と内職、三女の梅子は保険会社に勤務、末娘は保母見習いをしながら暮らしています。
何となく「今後、誰が鶴亀の面倒を見るか?」という事が、姉妹たちの暗黙の心配事となっています。
姉妹たちは皆しっかり者ぞろいで、鶴亀はどこか安心している感じがします。
むしろ鶴亀としては松子の過剰な愛情が窮屈で、松子の「自分のためにお嫁に行けずにいる」というような犠牲的な態度が重荷になっているように見えます。
ならば大人しくしていれば良さそうなものですが、どうも鶴亀はそういう器用な子ではなさそうです。
松子は鶴亀のちょっと逸脱した行動にいちいち神経質になり、ほとんどノイローゼのような状態になってしまいます。
そして、その過剰な心配が鶴亀をイライラさせるという悪循環が起こっているようです。
すでに貫禄を漂わせる長女、初子(津島恵子)
初子は、サバサバしていて迷いのない性格という感じです。
旦那さんはちょっと気難しそうですが、なかなか上手くやっている様子です。
鶴亀を引き取ってくれたり、松子に結婚相手を世話してくれたりと気にかけてくれるのは有り難いのですが、彼女にはイマイチ大雑把な所があります。
紹介してくれた相手は、とうてい松子の気に入るような人ではありませんでした。
おまけに鶴亀と旦那さんが衝突し始めると、あっさりギブアップして鶴亀を家に返してきます。
「ごめんなさい、やっぱり私には手に負えないわ」と、悪びれる事すらしません。
鶴亀がサラシの腹巻きをしていたのを「愚連隊かやくざのファッションだ」といってビビってしまう辺りは、ちょっと間が抜けていて笑えます。
ただ、彼女が自分の家庭を守ろうとするのに一切「迷い」の無い様子は、見ていて清々しく、やっぱり母となった女性の「貫禄」のようなものを感じます。
鶴亀の心配ばかりして自分の人生を犠牲にしかけている松子とは、まるで親子程の違いを感じます。
松子、腹を据える
鶴亀は、学校の「不良の親分」的な奴の窃盗品を売りに行った事が発覚して、家に刑事の調査が入ります。
姉妹たちは騒然となり、鶴亀自身も不安になってしまいます。
ただ、この時の松子は割としっかりしていて「絶望はしていないし、鶴亀を元に戻せる自信がある」と確信している様子です。
この松子の信頼が鶴亀にも通じたのか、彼は初めて姉に「ごめんなさい」と素直に謝るのでした。
二人は警察に出向きますが、特に「お咎め」はありませんでした。
姉弟は少しだけ大人になり、松子は自分の「女性としての幸せ」にも目覚め始めたようです。
1962年公開
この映画で一番興味深かった場面は、末娘が鶴亀を元気づけに「歌声喫茶」に誘うところです。
カラオケボックスでもなく、カラオケ・バーでもない、この独特の空間が妙に楽しそうです。
伴奏はアコーディオン1本と手拍子のみで、みんなで「大合唱」をします。
偶然そこに居合わせた人たちが、一緒になって歌うだけというシンプルな「交流」が良い感じです。
時代的には、まだ学生運動が盛んになる前のようだし、雰囲気ももっと明るい感じです。
ちょっとググってみると「集団就職などで都会に出てきた若者たちの孤独をいやす場ともなった」という部分が目に付きました。
なるほど・・・今で言うとツィッターや掲示板のようなものという事になるのでしょうか?
それから、末娘がやたらと「欠食児童」と言われていますが、欠食児童は1954年(昭和29年)の学校給食法の成立や、その後の高度経済成長で消えていった言葉らしいので、ここでは敢えて死語として使っているのでしょう。
他にもインスタントラーメンの出始めっぽい雰囲気とか、警察官の家庭訪問の風景、子供の親が教師に言う「もっと厳しくしてくれなくちゃ」という苦情、結婚する際に親との同居が問題になる様子など、今ではあまり見られなくなった光景が新鮮でした。
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