「東京の女性」は、厳しい競争社会である自動車販売の世界で活躍する女性を描いた物語です。

当時では女性のセールスマンはかなり珍しかったようで、ヒロインが行く先々で嫌がらせに遭う様子が赤裸々に描かれていました。

おまけにセールスの世界は顧客の奪い合いで、やらなければやられるという感じの厳しいものがあります。

ヒロインの恐れや戸惑いがだんだん無くなっていく様子には、ちょっと行き過ぎた感じがしました。

たった一人で一家を支える娘、節子(原節子)


節子は、自動車販売会社に勤めるタイピストですが、セールスマン同士の客取り合戦の醜さには付いてい行けないものがあります。

ある日節子は、想いを寄せている木幡(立松晃)が、殴り合いのケンカをしたり、同僚に非情な態度を取っている現場を目撃し、木幡に嫌悪感を抱きます。
ところが詳しく事情を聞けば、相手が汚い手を使ってきたからそれに対抗したまでだという事が分かってきます。
正義感の強い節子は、売上競争で販売員たちが醜い争いを繰り広げている事に心を痛めます。

節子の家は、父親が失業しているため生活が苦しい状態でした。
そんな折、父親が事故に遭い怪我をしてしまいます。
節子は父を助けるために、自分もセールスの世界に見を投じる決心をする事になります。
木幡は、節子にあまり厳しい世界に入って欲しくありませんでした。
この仕事は記憶力やメンタルの強さが要求され、時には女性として嫌な思いをしなければならない事もを伝えて、何とか諦めさせようとします。

ところが節子の決心は固く、家族を支える為に始めた挑戦は、だんだん彼女を虜にしていきます。
すさまじい努力と根性を発揮し、始めの頃こそ女性としての屈辱に傷ついていましたが、だんだんそれすらも乗り越えていきます。
次第に彼女は、家族を支えている満足感と自己実現の欲求が満たされていき、この仕事に手応えを感じるようになってきたようです。
そして彼女が成功するにつれ、木幡は節子に対して苦々しい感情をい抱くようになるのでした。

甘え上手の妹、水代(江波和子)


節子の妹・水代は、姉とは正反対の甘えん坊で能天気な性格です。

節子と同じ会社で働いていますが、同じ家庭に育ちながら家計への責任感は全く無く、遊ぶ事ばかり考えています。
水代には姉の心境が理解出来ず、全ては成るようにしかならないといった「他力本願」タイプです。

実は、水代は木幡が好きでした。
ところが木幡は節子を想っていて、水代の事は子供扱いです。
水代は木幡に当てつけるように、上司のエロおやじに誘われて食事に行ったり洋服を貰ったりするようになってしまいます。

ただ、木幡は「セールスマンになる以前の」節子が好きだったようです。
脅威の努力や才能を発揮し、メンタルも鍛えられてきた節子にとって、木幡のバックアップは必要が無くなってきたのです。

極めつけは、木幡が同僚にお客を奪われた仕返しにと、節子が木幡のお客を奪い返すという荒業をやってのけた事で事態は変わってしまいます。
これに気分を害した木幡は、可愛く慕ってくれる水代に近づき始めるのでした。

自分が思うほど人は感謝してくれない

ある日 節子は、水代が男たちからプレゼントしてもらった洋服を会社のロッカーに隠しているのを見つけます。
節子は卑しい行為をしたと水代に激怒します。

ところが水代は、家計が苦しくてお洒落が出来なかった事や、木幡が振り向いてくれない寂しさからエロ上司と付き合っていた事を打ち明けます。
そして、木幡が最近では水代の方に心変わりしているのを察知するのです。
節子は唯一の味方だった木幡と、必死で支えてきた水代から同時に背かれ、衝撃を受けます。

普通なら目的を失ってセールスマンを止めるか、やる気が無くなるかのどちらかのような気がしますが、節子は違いました。
衝撃から立ち直ると、二人を祝福してやり、より一層自分の仕事に力を入れて取り組むのでした。
節子の様子は、失うものもあったけど、自分は間違ってはいなかったという自信に満ちているように見えます。

1939年公開

この映画は、まったく日本らしい感じがしません。
まるで欧米の映画でも見ているようでした。

そしてこんな昔の映画に、水代のような今どきっぽい「ぶりっ子」が登場してきたので、ちょっと驚きましたw

節子のキャリアウーマン振りも、当時の日本としては異例な感じだったのではないでしょうか。

テーブルの上に座って電話を掛けたり、歩きタバコをしたり、足をくんで腕組みするしぐさは、今でこそ珍しくありませんが この頃の映画には見られなかった場面です。

当時では欧米っぽくて浮き出ていた作品が、今となっては違和感が無くなっている事を思うと、時代がどっちの方向へ流れてきたのかがよく分かるような作品でした。

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