「億万長者」は、皮肉たっぷりで世相を斬った、ブラックユーモア満載の作品です。

それも現代の感覚では、ユーモアの題材としては一線を越える所まで行っています。
この頃の映画は、単なるエンタメの域を越えていると感心してしまいました。
そして貧しい庶民の逞しさには ただただ打たれ、清々しさすら感じます。

昔の小役人を絵に書いたような男、館(木村功)

税務署徴税係の館は、地味で貧相な、形式にこだわる生真面目な性格の男です。
弱々しいので舐められてしまい、税の徴収がなかなかはかどりません。

一方で、想像を絶するような貧苦の中でも庶民はたくましく生きています。
署長の言う「庶民は税金が払えないと言いながら、ちゃっかり生活している。可愛そうなのは律儀にガッツリ収めている人だ」というセリフが笑えます。

ある日館は、税の徴収に訪れた寡婦に「見逃して欲しい」と、無理やり一万円のお金を握らされてしまいます。
生真面目で気が弱い館は、自分が恐ろしい不正を働いてしまったという自責の念にかられ、しまいには自動車に飛び込んで自殺まで図ろうとします。
驚いたのは車の方でしたが、館は無事で、中に乗っていた芸者は館をお茶屋に招き、介抱してあげます。

木村功さんの出演している映画


子沢山の売れっ子芸者、花熊(山田五十鈴)

車に乗っていた芸者の花熊(山田五十鈴)は売れっ子で、13人の旦那を持った経歴があり、13人の子供を育てています。
子供だけが生き甲斐で、仕事も男も子育てのための「手段」に過ぎません。

花熊は館が税務署員だと知るや、彼をけしかけて一儲けしようと目論みます。
「あなたのポジションを利用すれば、脱税の不正を暴く事が出来る、これを告発すれば社会貢献になる」と館の若い正義感に訴えかけます。

山田五十鈴さんの出演している映画


やっぱり人生は甘くなかった・・・

どこか自分の人生に期待を持てずにいた館は、花熊の誘いに俄然やる気が出てきます。
人が変わったように情熱的になり、バリバリと行動するのでした。

「脱税リスト」が完成し、館はこれを発表するべく花熊の元へ相談に出向きます。
ところが館は偶然、花熊が「脱税リスト」を恐喝の道具に使って金儲けをしようとしている事を知ります。
絶望した館は放心状態になり、リストを紛失してしまいます。

そしてこのリストは、何と検事総長の手に渡る事になるのです。
この出来事は国会を揺るがす大騒動に発展します。
館は法廷で証言しようとしますが、その生真面目さゆえ頭が変だと思われてしまい、裁判の証人から外されてしまうのでした。

市川崑さんの監督映画


1954年公開

この映画で一番分かりにくかったのが、子沢山の貧乏一家が心中を図ろうと思ってマグロを食べ、本当に死んでしまうシーンです。
なぜマグロで死ぬ?と思い、調べてみました。

このシーンは、1954 年に起こったアメリカの水爆実験による漁船の被ばく事件の事を表しているようです。
マグロ漁船「第五福竜丸」には、「死の灰」(放射性降下物)が降りそそぎ、乗組員 23 人は全員被ばくしました。
他にも多くの船が被害を受け、‘54年だけでも856 隻の漁船が放射能に汚染されたマグロを水揚げし、「原爆マグロ」騒動は日本全国に波及したそうです。

マーシャル諸島では人々に深刻な被害が出ており、いくつかの環礁では今だに住民が故郷の島に戻ることが出来ないなど、風化された過去の出来事として捉える事は出来ない問題なのでした。

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