「婚約三羽烏」は、イケメン3人組の『逆玉』争奪戦を描いたコメディ・ドラマです。

当時のゆる~い採用試験の様子や、のんきなお仕事風景は、コメディとはいえ今から見ると ちょっと おとぎ話のようでした。
そして彼らは貧乏暮らしですが、ギスギスしたり怯えたりする事なく、けっこう楽しげでいい感じです。

まったりとしたスロー・テンポなギャグセンスと、男たちの無邪気な呑気さがほのぼのとしていて、思わずほっこりしてしまいましたw

さすがに簡単に逆玉の輿に乗る事はできませんが、男たちはけっこう幸せです。
彼らの恋人たちは、男たちがフラフラしても動揺せず、最後は暖かく迎えてくれる頼もしい存在でした。

恋人に捨てられたプー男、周二(佐野周二)


周二はいま失業中で、半年間もプラプラしています。
かれは同棲中の恋人に愛想を尽かされ、今まさに彼女は家を出て行こうとしている所です。

ただ状況が、ケンカ別れではなく「円満」に、カノジョが最後の手料理を振る舞うのだから驚きます。

これでは周二からすると、なおさら未練が残るというものです。
彼は今更のように慌てて、通知の来ていた所へ面接に向かいます。

彼は運良くその面接に合格しますが、帰ってみると恋人は出て行った後でした。
子供のようにオロオロする周二ですが、時すでに遅し・・・。
彼女は勤めも辞めて、行く先も分からなくなってしまいました。

それからというもの、周二は一緒に採用された2人とともに、ブティックを彩る三羽烏として活躍します。
どうやら この三人は、女性客の為の売り子として、ビジュアルでもって合格したようです。

3人組はそれぞれの得意を活かし、お店でも大切にされて、周二もけっこう居心地が良くなってきました。

野心家の恋人、順子(三宅邦子)


周二の恋人・順子は、ダンサーかホステスをしているようですが、彼女の収入はけっこう良いようです。
周囲の仲間たちは独立して店を持ったり、スターになったり、株をやっているなどと、景気の良さそうな話題が飛び交います。

そして順子は、自分だけがいつまで経っても浮かばれないのは、失業中の恋人を抱えている事が原因だと不満げでした。

彼女は周二に職に就くよう再三言ってきましたが、彼が仕事を選り好みしてしまうのは、自分に収入があるせいだと思っています。

順子はあくまでも「あなたの為に別れるのだ」と言い張りましたが、その辺の本音はよく分からないところです。

降って湧いた野望

順子に捨てられた周二は、今度こそ心を入れ替えてマジメに働き始めます。

心寂しい彼は、一緒に入社した同僚と親睦を深めたりして、孤独を紛らわすのでした。

ところが周二の心変わりは、わりとアッサリしていました。
周二は新しい職場で、社長の令嬢に目をかけられ、たちまち有頂天になってしまいます。

それまで ひどくショボ暮れていた彼の中に、たちまち令嬢と結婚して出世するという野望が芽生え
「いよいよ運が向いてきた」とばかりに俄然やる気が湧いてきます。

そこへ順子が、フラっと帰ってきます。
ところが周二の気持ちはすでに順子から離れていて
「黙って出て行くなんて、不愉快だね」
と不満を漏らすだけです。

一方順子は、周二もまだ勤めて日が浅い為、本当に継続できるのかを見定めたい気持ちがあるようです。

とはいえ周二が何やらウキウキした様子なのを見て、目ざとく「恋人でも出来た?」と訪ねる様子は、ちょっと心配そうです。

周二もべつに令嬢とお付き合いしているという程の事ではないので、どっちとも付かない返事をします。

「とにかく戻ってくるのは、まだ早い」
などと言って、順子を遠ざけようとしている様子です。

順子は少し寂しそうに見えますが、かといって帰って来ようとする様子もありません。
ただ、どうやら周二のためを思って突き放したというのは、本当だったかもしれません。

新たな女性の影を心配しつつも、彼の気持ちを尊重したり、自立するのを離れて待つという芸当が出来るという、やっぱり一枚上手な相手なのでした。

1937年公開

周二の勤める店は「人絹を(じんけん)売るお店」と言っていましたが、何の事かと思ったら「レーヨン」の事でした。

レーヨンは光沢があって質感が絹に似ているという事で、着物の生地として当時の注目素材だったようです。
このお店は人絹の生地専門店で、この頃は、服や着物は生地を買って、それを自分で縫ったり仕立て屋に依頼するのが普通でした。

そしてお店は、伝統的な呉服屋に対抗して、西洋式の高級ブティックのような店構えです。
主人公のイケメン3人組は「女性ウケする見栄えのいい売り子」といった存在で、今で言う“黒服”のようです。

この映画のテイストは、BGMがジャズだったり、男たちの私服はハリウッド映画のように帽子とスーツといった出で立ちで、すっかりアメリカンなムードです。
それも明治時代のような違和感はすでに無く、かなり板についている感じです。

主人公のカップルの様子などを見ると、当時から都会ではかなり自由な空気に包まれていた感じが伝わってきました。

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