林芙美子は、庶民の生活をリアルに描いた昭和の女流作家です。

林芙美子は、人生の前半を労働者として生きた人でした。
その作品は、難解でアカデミック的な文学というよりは、今でいうサブカル界の流行作家といった存在だったのではないでしょうか。

林芙美子の小説はたくさん映画化されていて、昭和初期の情緒や、当時の女性の日常と赤裸々な心情をいまに伝えてくれます。

【泣蟲小僧】姉妹って、やっぱり何か良い♪

「泣蟲小僧」は子供が主人公の映画ですが、実はその子を巡る4人の姉妹たちの生活振りが、見ていて面白いのです。

夫に先立たれて二人の幼い子供を抱え、ちょっと没落気味の愛人を必死で繋ぎ止めようとする長女や、売れない小説家を夫に持ち、子育てに追われて所帯じみてしまった主婦の次女、独身でお勤めに出ているしっかり者の三女や、これまた売れない画家と内縁関係の末娘は、それぞれタイプも全く違います。

この4人が、お互いの生活に批判を投げかけたり、時には助け合いながら親密につながっている様子は「やっぱり姉妹って良いものだなぁ」という気がしてきます。

【下町】孤独の厳しさがビシビシ来る

「下町」は、シベリアに抑留されている夫を7年も待ちながら、正直待ちくたびれている悲しい母親を描いた物語です。

この母親は、周囲の女たちが男に縋って生きているのを横目に見つつも、自分だけは歯を食いしばって独りを貫いています。
ところが彼女にも、頼もしい男性が現れます。

彼もシベリアから帰還してきた元兵士で、日本へ帰ってみると妻は他の男性と一緒になっていた、という他人事とは思えない共通点を持っていました。
二人はお互いに惹かれ合い、一緒になる事を誓うのですが・・・。

そんな、戦争の悲劇の中でも「待つ身の辛さ」を描いた物語です。

【南風】良い男を見極めるのは難しい・・・

南風は、身勝手な男性と肉体関係を持ってしまった事で、望まれない子供を宿してしまった娘の物語です。

最初は逃げ腰の彼氏を何とかしようとする娘ですが、相手の心が離れてしまった以上はどうする事も出来ず、娘は一時は独りで自活しながら子供を育てて行こうと決心します。
でも身勝手な男もいれば、そんな彼女を見捨てておけない男もいるもので、結果的に娘にはもっと良い相手が見つかります。

ところが今度は、相手の親の事でヤキモキし、子供を失ってしまうという取り返しのつかない事態に陥ってしまいます。
それでも今度は、良い相手が付いていてくれるので、娘にも一からやり直そうという元気も出てくるのでした。

【浮雲】失望を味わい尽くす女の一生

「浮雲」は、女性から女性へと次々に新しく乗り換えていく男に翻弄される女を描いた物語です。

戦中の植民地で、優雅に不倫の恋に花を咲かせていた男女が、敗戦と同時に現実を突きつけられますが、二人はどこか昔の夢を忘れられずに夢遊病者のように彷徨い続けます。

女は男に何度裏切られ捨てられても、彼を断ち切る事は出来ないし、男は自分の都合の良い時だけ女の前に現れます。

どっちもどっちと思ってしまいますが、やはり女性は一度根付いてしまった感情を断ち切る事は難しいものなのかもしれません。
ましてや身寄りもなく、日本という国自体がもろく危ない状態になってしまった世界で、たった独りで生きて行こうとするのは寂しすぎるような気がしました。

理屈を越えてダイレクトに感情に訴えかけてくるような、完全にハマってしまった作品です。

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