亡くなった家族の冥福を祈る法事・法要は、今では簡略化されている傾向にあるようです。

とはいえ、昔ほど仏教的な形式を重んじなくても、規模が縮小しても、遺族が一同に集まって故人の冥福を祈る場としての法事は、家族がある限り続いていくのではないでしょうか。

今回は「法事の風景」を描いた映画を通して、色々な家族がどんな ひとときを過ごしているのかをまとめてみました。

【戸田家の兄妹】みんな幸せに暮らしているか?

「戸田家の兄妹」は、ある大物実業家の当主が亡くなり、残された妻と娘が色々と苦労するという物語です。

大金持ちとして栄えてきた戸田家ですが、当主が亡くなってみると実は債務が大きく、財産はほとんど残らないという事が分かってきます。
戸田家の子供たちは半分は独立していて、末の息子はこの機に満州へと旅立ち、年老いた母と末の娘が取り残される事になりました。
屋敷は借金の返済の為に売却しなければならず、二人は長男の家に居候する事になります。

ところが二人は長男のお嫁さんに煙たがられ、長男も優柔不断なため、長女の家に移り住むしかありませんでした。
今度は肉親なので安心かと思いきや、長女は絶対的な支配権を振るい二人に厳しく当たるので、結局そこにも居辛くなってしまいます。
そして この気の弱い母娘は、結局兄妹の間を転々した挙げ句の果に、廃墟同然の別荘に移り住むしか無くなってしまうのでした。

こうして1年の月日が経ち、父親の一周忌の法要が執り行われます。
そこで家族全員が一同に会したとき、満州から戻ってきた末息子は、母娘の窮状について兄妹全員をその配偶者もろとも叱り飛ばすのです。

末息子の説教は容赦なく、その場の空気は一気に凍りついてしまいます。
いたたまれなくなった兄妹夫婦たちは、ふて腐れ気味でみんな帰ってしまいました。

法事の風景としては なかなか破天荒な状況ですが真心が籠もっていて、彼こそが父親の遺志を継いでいる事が分かります。
そして彼自身も「故人もさぞ驚いておられるだろう」と母娘にフォローを入れますが、母娘は一気に安心したのか、もう二人とも号泣状態です。

一家の大黒柱が亡くなった後「遺族が困った状況に陥っていないか」という、チェックを入れる場としての法事の情景でした。

【女の座】縁結びのお坊さんがいる寺

「女の座」は、父親が再婚したため腹違いの兄弟が共存する事になった大家族を描いた物語です。

兄妹は女が5人もいるという女系家族ですが、亡くなったのは長男で、映画では長男の三回忌が描かれています。
長男の三回忌にしては悲壮感が無く、誰も故人について語ったり しんみりする事もない、ドライな感じの法事の風景です。

娘盛りのニ姉妹などは「お経を聞いた後は、皆で遊びに行こう♪」という能天気さだし、オールドミスの次女はお嫁さんに対して「何をいつまも拝んでるのかしら」といった冷淡さです。

この少し奇妙な雰囲気は、やっぱり子供達が大きくなってからの再婚という事が原因かもしれません。
家族をまとめているのは、何といっても「母親の情」以外の何ものでもないのでしょう。

皆が集まったときの話題は、子供たちの家庭の生活についてです。
後家になってしまったお嫁さんの再婚だとか、中学生の息子の進学の事、居候中の三女夫婦の落ち着き先などです。

そしてこの一家が檀家になっている寺のお坊さんが変わっていて、娘への見合い話を持ってきたりします。
確かにお坊さんというのは地域の顔利きで、各家庭の事情も分かっているので、縁結びも可能なネットワークを持っているのかもしれません。

【花籠の歌】ちょっと改まった場が必要な家族

「花籠の歌」は、銀座で天ぷら屋を営む料理屋の一家を描いた物語です。

天ぷら屋の一家は、まだ娘が小さい頃に母親を病気で亡くしています。
代わりに娘の面倒を見てくれた叔母が形式を重んずるタイプで、この家では毎年法事を行っている様子です。

一方、当の親子は特に信心深い様子ではなく、お店の常連であるお寺出身の学生に頼んでお経を読んでもうというカジュアルさです。
ここでの法事の様子を見ていると、お坊さんはちょっとした「カウンセラー」のようです。
叔母が語る故人や遺族の経歴を色々と聞かされ、彼女の懐古の念に付き合います。

そして、ここでも年頃の娘のお見合いの話題が出てきます。
この家庭は、お店が忙しくて普段は改まって話をする機会がないようです。
女親がいないという事もあり、叔母があれこれ世話を焼いてあげなければ、適齢期の娘の行き先もおろそかになりがちです。

故人の死を悼み、その遺志を引き継いだ者がその後の家族の様子をチェックして、次の世代の現在や将来について話し合う・・・それが、日本の法事の姿だと思いました。
離れて暮らす家族たちが再会したり、普段は話題にしないような問題に目を向けたり、助け合う習慣として受け継がれ、これからも続いていくのでしょう。

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