億万長者 [DVD]

「億万長者」は、社会風刺のサビをピリッと利かせた、都会的なコメディ映画です。

いちばん印象的だったのは、やたらと子沢山の家庭が出てくる事です。
税務署長の家は23人、芸者の子は13人、写真屋の家庭は12人、寡婦の所は18人の子供がいて、家庭はまるで保育所のようです。

ところが どの家庭も経済的な問題を抱えていて、かなり厳しい状況で子供を育てています。
それでも悲壮感は押し出されておらず、やっぱり子供たちは可愛いし、家庭は賑やかで楽しそうなのですが、社会が子沢山を歓迎しない時代だったように感じました。

若者たちが「自分は子供は作らない」と主張している原因は彼らの家庭環境への反動ですが、戦後にしては時代のギャップを大きく感じる光景が広がっていました。

現状が大いに不満な娘、麻子(左幸子)

税務署長の娘・麻子は、父親と同じ職場に勤めていますが、その地位もあってかチヤホヤされている存在です。

「日本人は計画性がない」とか「仕事の能率が悪い」などアレコレ文句を言って、理想をはるか高く掲げています。
結婚相手に求めるのも”仕事がバリバリ出来て”、”お金持ちでバイタリティのある男性”と注文が多い、かなり欲張りな性格のようです。

税務署長の家は子供が23人もいて、母親は子供を生み続けて身体が弱り、最後のお産でとうとう亡くなってしまったのでした。
麻子は、自分が役所の事務職程度の仕事にしか就けなかったのは、家が子供を生みすぎて一人当たりの教育費が減ってしまったせいだと言います。

だから彼女は「自分は子供は産まない」と決めています。
計画的な人生を歩み、自分の生涯を有意義に謳歌しようと考えているのです。

◆左幸子さんの出演している映画◆


俳優を目指す失業者、門太(岡田英次)

俳優志望の門太は、只今失業中です。
彼の家には12人の子供がいるというのに、父親も失業しています。

ところがこの家に、税務署からの徴収係が『一昨年の税金』の督促をしに訪ねてきます。

税金の請求というのはタイムラグが出てしまうものですが、この家も昔は立派に写真屋を営んでいたため、その頃の税金が未納になっているのでした。
ところが今となっては収入など無く、父も母も「無い袖は振れぬ」とばかりに笑うしかありません。

この家庭の子供たちは皆まだ幼く、働ける年齢に達しているのは門太ひとりですが、彼も職に就けずに「ニューフェイス」という俳優のオーディション・ジプシーのような生活をしています。
門太は自分の運命に絶望し「自分だって、こんな子沢山の家に生まれていなければ今頃もっと素晴らしい地位につけた筈だ」と嘆きます。

そして彼も「自分は決して子供を持たない!」と宣言します。
これがキッカケで、徴収係と一緒に来ていた麻子と意気投合してしまうのでした。

◆岡田英次さんの出演している映画◆

結局は計画性が無かった二人

麻子と門太はさっそく付き合い始め、麻子はすぐに妊娠してしまいました。
そして麻子は「自分を妊娠させた」と門太に失望し、彼を捨ててしまいます。

一方 門太は、麻子に振られた事でヤケになります。
おまけに門太の家では、税務署から差し押さえを食らってしまいました。

門太の両親は、いよいよ一家心中を決意します。
ただ「門太はもう独りで生きていけるのだから」と思いとどまるよう諭されますが、彼は自分を棄てた女への腹いせに自殺すると言い張るのでした。

◆市川崑さんの監督映画◆


1954年公開

映画に出てくる子沢山のイメージは誇張だとは思いますが、昔は兄弟が5、6人いるような家庭も結構あったものです。

直近の人口増加時代としては、1940年代の後半あたりの「第一次ベビーブーム」があります。
原因としては「終戦で復員兵がどっと戻ってきて、結婚する人が多かった」という事が挙げられていました。
そして単純に『人口の数』だけで見れば、2010年くらいまではずっと増え続けています。

ところが『出生率の推移』を見ると、この第一次ベビーブーム以降に急激に減り始めているのです。
そして「第二次ベビーブーム」の時ですら、人口の数こそ増えていますが、出生率はどちらかと言えば「横ばい」という感じに見えます。

そこで第一次ベビーブームの後に何か変化が起こったのかを調べてみると、1948年に「優生保護法」という法律が制定されているのが気になりました。

この法律は中絶や避妊を合法化するもので、本来の目的は「障害を持つ子供の出生防止と、母胎を危険から守る事」でした。
ところがこの法律の成立の背景には、どうやら戦後の治安の悪化による望まぬ妊娠や、復員による過剰人口問題があったようです。

そして この法律は’52年に改正され、いわゆる「家族計画」という言葉で避妊を奨励し、中絶規制は緩和されて「経済的理由」を目的とした中絶が認められるようになったそうです。

もちろん法律だけが要因ではないでしょうが、全く関係がないとも言い切れない気もします。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。