「花籠の歌」は『銀座のとんかつ屋』という、今からすると ちょっとシブい舞台で繰り広げられる当時のラブコメ物語です。

お店の看板娘と、常連である大学生たちとの掛け合いが楽しくて、和モダン風なオシャレ感を醸しています。

江戸っ子風ながらハイカラなお父さんや、芸達者で前向きな板前さん、家が「お寺」でお経のバイトをしている大学生など、キャラクターがそれぞれユニークで魅力的でした。

お店の活気と人情を通して、当時の東京・銀座の夜の華やかさが伝わってきます。

とんかつ屋のアイドル的存在で、おきゃんな洋子(田中絹代)

銀座で評判のとんかつ料理屋「港屋」の看板娘・洋子は、雑誌にも取り上げられたりする人気者です。

おまけに しっかりしていて、家族経営のお店を切り盛りする様子は まるで熟練の女将のようです。

とはいえ同年代の大学生たちと戯れる様子は、ごく普通の女の子といった感じです。

そして常連である二人組が お店を「拠点」とし、時として昼寝の為に2階を借りたりする様子が面白く、なんだか羨ましいような光景でした。

洋子はそのうちの一人・小野(佐野周二)が好きで、小野も洋子を想っているのでした。

世故に長けたお寺の息子、堀田(笠智衆)

とんかつ屋の常連二人組の一人である堀田は、鷹揚でちょっとチャラい雰囲気ながら頼もしい男で、皆から慕われています。

彼は実家がお寺で将来は住職という、小野からしたら羨ましい地位にあります。

二人はもうすぐ卒業なのですが、小野は就職できる自信が無い状況で、堀田に
「一緒にとんかつ屋でもやらないか?」などと持ちかけます。

この頃はサラリーマンになる方がハードルが高く、個人事業を始める方が一般的だったのでしょうか?
そして他にも、選択肢として「養子の口」なんていうのが普通に出てくる事に驚きます。

ところが堀田は二人の気持ちを見抜いていて、小野に港屋の婿養子になる事を勧めます。

そして勧めるだけでなく、二人の間に立って結婚話を取り持ったり、洋子の父親に掛け合ったりと器用に立ち回り、ついには この縁をまとめてしまうのでした。

小野の秘密

洋子と小野は両思いで結ばれ、父親も娘の夫を跡取りとして迎える事が出来て、めでたしめでたし・・・で終わるのかと思いきや、ここで事態が一転します。

小野が港屋に入って見習い修行をし始めた頃、いきなり警察がやってきて、彼は連行されてしまったのです。

当然ながら洋子の動揺は大きく、改めて彼女は「彼について知らない面がある」という事を実感するのでした。

そして翌日、新聞記事にカフェーの女給が殺されたというニュースを見て衝撃を受けます。
彼女は、小野の知り合いだったのでした。

しまいに洋子は「悪い男と結婚させた」と、父親に当たり散らします。
一番乗り気だったのは洋子自身なので、これでは お父さんが可愛そうに思いますが・・・。

結局 蓋を開けてみたら、被害者の部屋に小野から来たハガキがあったというだけの事であり、小野はすぐに帰って来ました。

ところが、洋子の気持ちは乱れたままです。
この事件がキッカケで、小野が過去に女給さんと関係していた という事が知れたからでした。

ところが、ここでも堀田が間を取り持ちます。
「これからの事は改めれば良いじゃないか、あとは過去が許せるかどうかの問題だ」
と、フォローしたりプッシュしたりして、洋子の気持ちをなだめてしまいます。

小野の優柔不断な様子との対比から よけい堀田の働きが際立ち、この珍しい個性に感心してしまいました。

1937年公開

この映画の特徴として、とんかつ屋の洋子の振袖姿が素敵なのが印象的でした。
日本髪も本格的でキマっており、簪がキラッキラしています。
看板娘という事もあると思いますが、この頃の銀座の料理屋の人はこんな本格的な衣装で働いていたのでしょうか?

そして この頃は給仕にお酒を勧める風習があったのか、あちこちの男性客にお酒を勧められる様子も不思議です。

本編に流れる民謡や歌謡曲のような軽快な音楽や、ちょっとファンタジー的なネオン、銀座の柳や下宿の木造家屋も趣があっていい感じです。
学生が言う「やっぱり銀座は良いなあ・・・」というセリフからは、銀座が文化の最先端だった様子が伝わってきます。

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