「花籠の歌」は、銀座の料理屋を舞台に繰り広げられる、当時の若者の生活ぶりが描かれた楽しい映画です。

銀座の人気とんかつ店の看板娘や、ちょっと遊び好きの学生たちの物語で、当時の「軽いノリ」的な様子が垣間見れる作品でした。
ハイカラで都会的なキャラ達の、力が抜けた伸び伸び感が良いです。

戦前期の、昭和がまだ明るかった頃の空気が感じられました。

とんかつ屋のアイドル、洋子(田中絹代)

銀座で評判のとんかつ料理屋「港屋」の看板娘・洋子は可愛くて愛嬌があり、人気者です。
活発で働き者な娘で、積極的にお店を切り盛りしています。

店の客にファンがいたり、コックの李さんも彼女に夢中ですが、23才という女性にとってはかなり大切な時期なので、親は何かと気を揉んだりします。
子供は娘二人なので、親たちは洋子の夫として婿を取りたがっているのです。
店の客から見合い話が持ち込まれ、叔母がしきりにプッシュしてくるのですが、洋子は首を縦に振ろうとはしません。

洋子にはお店の常連で仲良しの学生二人組がいて、時には彼らが2階を借りて昼寝したりするような間柄です。
そして洋子はそのうちの一人・小野(佐野周二)が好きで、小野も洋子を想っているのでした。

世故に長けたお寺の息子、堀田(笠智衆)

洋子の仲良し二人組のもう一人の堀田は、けっこう頭が切れるタイプで、ちょっと頼もしい男です。
実家がお寺で、卒業したら住職になれるという、小野からすれば羨ましい身分です。

小野は次男だし、大学を卒業しても就職できる自信はないようで、堀田に一緒に飲食店でもやろうと持ちかけます。
この頃はサラリーマンになる方がハードルが高く、個人事業を始める方が一般的だったのでしょうか?
他にも、社会人になる道として「養子の口」なんていう選択肢が普通に出てくるのには驚きます。

そんな小野を見て、堀田は港屋の婿養子になる事を勧めます。
ところが小野は、港屋ほどの店は望んでいないのか、やたらと尻込みしてしまいます。

堀田は面倒見が良いというか気が回るところがあり、小野と洋子、双方の気持ちを知っている事もあって、人肌脱いでやる事にしました。
小野を説得したり、洋子の父親に掛け合ったり、それとなく洋子にけしかけたりして、マメに立ち回ってこの話をまとめてしまいます。

小野の秘密

洋子と小野は両思いで結ばれ、父親も娘の夫を跡取りとして迎える事が出来て、めでたしめでたし・・・で終わるのかと思いきや、ここで事態が一転します。

小野が港屋に入って見習い修行をし始めた頃、突然警察がやってきて小野は連行されてしまったのです。
残された二人はひどく動揺し、どうしていいか分からず、とにかく堀田を探します。
二人は恋愛結婚とはいえ「お付き合い」のような期間を経たわけではありません。
小野はどちらかと言えば口下手で、実は彼の事はまだよく分かっているとは言えない感じなのです。

そして翌日、なんと新聞に小野の知り合いだったカフェーの女給が殺されたというニュースが載ります。
洋子はひどくショックを受け、悪い男を押し付けたと父親に当たり散らします。
一番乗り気だったのは洋子自身なので、お父さんはちょっと可愛そうです・・・。

結局は、被害者の部屋に小野からのハガキがあったというだけの事であり、小野は晴れて無実が証明されて出所してきます。
ところが、洋子の気持ちは乱れたままです。
洋子にとっては殺人の容疑などよりも、過去に付き合った女性がいたという事の方が重要だったのです。
殺人事件の女給とは違いましたが、小野には以前付き合っていた女性がいたようです。
洋子は小野の女性関係が気にはなっていたのですが、それが明白になった事で結婚を躊躇する気分になってしまったのです。

ところが、ここでも堀田が間を取り持ちます。
「これからの事は改めれば良いじゃないか、あとは過去が許せるかどうかの問題だ」とフォローしたりプッシュしたりして、事を諌めてしまいます。
小野がフラフラしている印象なのと比べ、なぜか堀田が言うと安心してしまうという不思議と安定感のあるキャラなのでした。

1937年公開

この映画の特徴として、とんかつ屋の洋子の振袖姿が素敵なのが印象的でした。
日本髪も本格的でキマっており、簪がキラッキラしています。
看板娘という事もあると思いますが、この頃の銀座の料理屋の人はこんな本格的な衣装で働いていたのでしょうか?

そして この頃は給仕にお酒を勧める風習があったのか、あちこちの男性客にお酒を勧められる様子も不思議です。

本編に流れる民謡や歌謡曲のような軽快な音楽や、ちょっとファンタジー的なネオン、銀座の柳や下宿の木造家屋も趣があっていい感じです。
学生が言う「やっぱり銀座は良いなあ・・・」というセリフからは、銀座が文化の最先端だった様子が伝わってきます。

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