「まごころ」は、小学生の仲良し二人組の女の子と、その親たちの過去のロマンスを巡る物語です。

けっこう厳しい事を言う男性陣や、頼もしいお婆ちゃんが印象的で、その奥には家族の自立を願う愛情が感じられました。
彼らは優しくて温厚ながらも、言うべき事はビシッと心得ている感じで、相手に対して真摯に向き合っている事が伝わってきます。

そのせいか子供たちも聡明でたくましく、かなり精神的に大人びています。

親といえども子供に学ぶ事もあり、そういう時は素直に自分の否を認める姿も潔くて、かえって立派に見えました。

お母さんの秘密が気になる少女、富子(加藤照子)

富子は小学校の高学年くらいの少女ですが、賢くてけっこう大人びた所があります。
彼女の父親は小さい時に亡くなってしまったので、母親が仕立物をしながらお婆ちゃんと3人で細々と暮らしています。

富子は最近、親友の信子から気になる事を聞かされました。
信子の父親と富子の母・蔦子は昔好き合っていて、二人は結婚する事になっていたという話です。

蔦子(入江たか子)

富子は最初「そんな筈ない」と否定しますが、信子は両親がその事で口論していたのを聞いてしまったらしいのです。

彼女はショックを受け、それからというもの蔦子を問い詰めたり様子を伺ったりするのですが、なかなか気分が落ち着きません。
というのも、富子が蔦子に「お父さんの事、好きだった?」と聞いても、その返答は何だか心が籠もっていないのです。
そんな二人の様子を見かねて、お婆ちゃんは真実をぶちまけてしまいます。

それが、あまりにもストレートで驚くのですが
「お前の父親は、大酒飲みのロクデナシでの。
蔦子やお前を、死ぬほど苦しめたもんだぞ」
と言い放たれ、富子は悲しくて泣き出してしまいます。

それでも富子は、あっけらかんとしている信子と話をしているうちに、だんだん気分が晴れてきます。
「もし、あなたのお母さんが家にお嫁に来ていたら、私達姉妹みたいなものね」
「でもそうしたら、私でもあなたでもない子供が生まれてたんだわ」
などと話し合う二人は、無邪気な顔をして しっかりと状況が呑み込めているのでした。

明るくて頼もしい親友、信子(悦ちゃん)

信子は街の名士といった家柄の娘で、裕福にワガママいっぱい育った元気な女の子です。
信子の家は、父親の敬吉が母親の家から学資を出してもらっていたという事情から、奥さんが威張っている感じです。

敬吉(高田稔)

信子は地頭が良く、いままではいつも成績がクラスでトップでしたが、今回の試験で急に10番に落ちてしまいました。
それを苦にした母親は、担任の先生に直談判をしに行きますが、その様子は自分の地位をチラつかせて教師にプレッシャーを与えているように見えます。

ところがこの新任の教師は全く動じません。
「信子さんは才能があるので出来ていましたが、小学校も高学年となるとやはり地道な努力が必要になってくるものです」とか
「伸び伸びとしているのは結構だが、この先ワガママな性格が強く出てくる恐れがあります」
などと、母親に厳しい助言を与えます。

ところが母親が一番カチンと来たのは、誰が一番になったのかという事でした。
今回一番の成績を修めたのは、むかし夫と恋仲だった蔦子の娘・富子だったのです。

彼女は教師が富子や蔦子を褒めるので なおさら面白くなく、つい敬吉に対して昔の話を蒸し返してしまいます。
この時の口論を聞いてしまった信子が、翌日富子に話をしたという訳です。

賢い娘たちに教えられる

とある午後の事、富子と信子が川で遊んでいると、信子が足にケガを負ってしまいます。

富子は家に薬を取りに行き、心配した蔦子も一緒に駆けつけました。
そのとき信子の側には敬吉が来ていて、二人は久しぶりに再会する事になります。

二人はどこか気まずく、表面的な挨拶をしてすぐさま別れますが、富子は蔦子の様子を興味津々な顔で凝視するのでした。
富子は敬吉を素敵な人だと思い、ちょっと蔦子の気持ちが分かったように見えます。

ところがその後、敬吉が妻に内緒で富子へお礼の贈り物をした事がバレて、妻の懸念は最高潮になります。
妻は敬吉に詰め寄りますが、実は敬吉が蔦子に会った事を秘密にさせたのは、信子だったのでした・・・。

信子は母親の気持ちが分かっていて、話さない方が良いと判断したのです。
そして富子は富子で、蔦子の困惑を察知して、信子の家にお人形を返しに来ます。

母親は小さな娘たちに自分の嫉妬を悟られていた事が恥ずかしくなり、さすがに自分の言動を反省したようです。
そこへ畳み掛けるように、敬吉は自分の出征が決まった事を妻に告げます。

この時の敬吉の言葉はとても厳しいものがあります。
「私はずっと以前から、お前の性格に見切りをつけていた」とか
「出征が決まった時、お前と離れられるのを嬉しく思った」、
「娘がお前の性格に似てきやしないか心配だった」
などという痛烈な言葉を、面と向かって淡々と告げるのです。
このあまりのストレートな物言いには、肝を潰してしまいました。

ただ敬吉がこれだけ本音を明かすという事の裏側には、妻が自分の欠点を顧みてくれた事を嬉しく思い、彼女を見直した気持ちがあるのだと思います。

1939年公開

この映画は、自然が豊かで静かな小都市の、穏やかな日常を描いた物語なのですが、ところどころに日中戦争の最中だという描写が出て来ます。
ただその様子には、戦時中を描いた戦後の作品によく見られるような悲壮感や激しさはありません。

割烹着にたすき掛けの女性たちは穏やかな感じだし、ヒステリックに「バンザイ、万歳」と叫ぶ風でもありません。
あくまでも明るい調子で描かれているのが特徴です。
ただ、これは「支那事変」と「第二次世界大戦」の違いなのかもしれませんが・・・。

それでもラストシーンで明るいテーマ曲がかかる中、颯爽と出征していく敬吉や見送りの人々とは裏腹に、残された妻二人の眼だけがとても暗く、これが実際だろうなと思いました。

成瀬巳喜男さんの監督映画


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