「妖精は花の匂いがする」は、女子大生と助教授の、友情と恋愛の間で揺れ動く葛藤を描いた物語です。

学校が純粋な学び舎という目的を失い、権威主義の形式的な存在に成り果ててしまった姿を表していると思いました。
映画に出てくる女子大では、教授も学生も何だか目的を持たない空虚な存在ばかりです。

元はブルジョアでも親を亡くした事で転落したヒロインは、苦しい中でも学歴にこだわっていましたが、それもだん意味がないような気がしてきたようです。

自立心旺盛な女子大生、田鶴子(久我美子)

田鶴子は私立の女子大に通う学生ですが、満州からの引き揚げで生活は苦しい上に、病身の姉まで抱えています。

彼女は、以前は裕福な家庭のお嬢様だったのですが、終戦によって境遇は180度異なってしまいました。
こんな身の上で、アルバイトをしながら女子大に通っているというのだから無理な話ですが、彼女はあくまでも前向きです。
「これからは自分の力だけで生きて行きたい」と強く願っています。

とはいえ やはり生活は思いの外厳しく、田鶴子は学費を滞納するようになってしまいます。
そこへ親友である水絵が、黙って学費を支払ってくれます。
水絵はお金持ちのお嬢様で、田鶴子の学費の1回や2回、何でもないと言います。

ところが田鶴子も元はお嬢様という事もあってか、この好意を素直に受ける事が出来ません。
彼女は躍起になって、水絵に学費を返済するために無理なアルバイトに手を出す決心をします。
それは絵のモデルであり、裸になることもあり得る仕事ですが、田鶴子は別に恥ずかしい仕事ではないと意地を張るのでした。

学生にモテモテの助教授、丹下(森雅之)

田鶴子は、大学の助教授である丹下先生を慕っています。
丹下は女子学生に人気があり、少々良い気になっている傾向があるようです。

中でも水絵は一途な娘で、丹下に夢中になり過ぎる様子は周りの学生から冷やかされっ放しです。
丹下はそれを知りながら、まるで彼女の心を弄んで楽しんでいる感じすらします。

一方 生真面目な田鶴子は、丹下に淡い想いを寄せながらも「もっと力強い、実践的な学習がしたいんです」と、彼に活を入れたりします。
丹下はそんな田鶴子が苦学を強いられている事も知っており、ちょっと耳が痛かったようです。

丹下は、ふとした事で田鶴子が絵のモデルの仕事をしようとしている事を知り、自分が力になる事でそれを阻止しようとします。
田鶴子は内心切羽詰まっており、丹下の懐へ寄りかかって行きたい衝動を覚えたように見えます。

ところが水絵が本気で丹下との結婚を考えている事を知り、身を引こうとします。
そして、一度は思いとどまったモデルの仕事を引き受ける事にするのでした。

社会の矛盾にブチ当たる田鶴子

モデルの仕事は「最初は服を着たままで良いですよ」とか「顔だけでもかまいません」と言う話でした。
ところが画家は制作の現場で煮詰まり、田鶴子に裸になって欲しいと懇願し、田鶴子は意を決します。

そこまでならまだ良かったのですが、何とアトリエに学校の同級生が現れたのです。
どうやら画家と同級生は付き合っているらしく、同級生は彼氏を取られような心境になり、頭に来て田鶴子を罵ります。
田鶴子は頭では割り切っていたつもりですが、友達に罵られると、急に自分の行動が恥ずかしくなってしまいます。

ところが、事はそれでお終いではありませんでした。
どうにも怒りが治まらない同級生は、画家が開いた個展の会場で田鶴子の行動を吹聴しますが、それが「赤新聞」の記者に嗅ぎ付けられてしまいます。
(「赤新聞」とは最初「赤旗新聞のことか?」と思いましたが、今でいうゴシップ誌のような存在だったそうです)

そして この記者がこの一件を淫らに脚色し、学校へ持ち込んで恐喝して来るという所まで発展してしまいます。
大学内は騒然となります。
教授会は大学の評判や権威を守ろうとして、田鶴子を退学させて事なきを得ようとします。
そして丹下は、田鶴子の将来を思って記者にお金を支払い、騒ぎをもみ消そうとします。

大学の仕打ちや丹下の行動に失望した田鶴子は、自ら大学を辞めて働きに出る決心をするのでした。

1953年公開

この映画に出てくる学生たちは、大学で何かを真剣に学んでいる様子はありません。
家が裕福なので、就職や嫁入りの時 有利になるように、肩書を手に入れてやろうという程度のものにしか見えません。

今は大学を出たからといって良い就職が出来るとは限らない時代になってしまいましたが、実は昔も今も本当の意味で大学へ通う必要があるのは、ほんの一部の人なのかもしれません。

ヒロインの言う「実践的な学問」とは時代の要請に即したスキルで、実際の仕事に活かせる知識を意味していると思います。
今は大学に限らず、なんだか世の中のニーズと学校で教えている内容に大きなギャップを感じます。

学歴は採用時の「ふるい落とし」のネタの一つに過ぎず、それを手に入れたからといって、社会に出てからも安心していられる訳でもないような気がしてしまいます。

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