「花は偽らず」は、適齢期の男女たちが抱く、感情の機微を描いた物語です。
若い男女の交流が固くてよそよそしく、あまり活き活きしていないという印象でした。
登場人物たちは淡い恋心は抱いていても、身分や立場が先に立って、自分の感情を押し殺して暮らしています。
好きという感情よりも「自分には適当だ」とか「家柄が」といった要素の方が大きかったり
「親に任せる」という結婚の形が描かれていました。
今のエンタメの世界とはだいぶ違いますが、逆にリアリティがあるような気もします。
結婚とは、恋愛による結びつきに限らず、もっと広い「縁」というものがあるのかも知れないと思いました。
あまり自己主張しないお嬢様、假名子(高峰三枝子)
大阪に住む良家の娘・假名子は、美しくて模範的なお嬢様という感じです。
彼女は、そろそろ周りの人から「ご結婚は?」なんて聞かれ始めるお年頃です。
本人は「まだまだ・・・」と言ってはいますが、言葉遣いや物腰に品があり、すでに大人の女性の風格があります。
假名子の家は、有望な書生に出資をしたりする立派な家柄です。
假名子は母親に連れられて、東京の叔母の家へ行く事になるのですが、その目的はお見合いだった事が分かってきます。
お見合いと言っても「プレお見合い」という感じで、お互いにまずは顔見せをしたのでした。
「彼の事をどう思う?」と気持ちを聞かれた假名子は、素直に「お母さんに任す」とだけ言います。
假名子の気持ちが描写される事はありません。
嫌いでは無さそうですが、特に惹かれたという様子にも見えない感じです。
それでもアッサリと結婚に承諾してしまう展開に、ちょっと驚きました。
控え目で庶民的なOL、純子(水戸光子)
東京に下宿して事務の仕事をしている純子は、田舎から出てきた平凡な娘です。
それでも言葉遣いはとても丁寧で、おっとりして控えめな性格です。
会社の重役たちと親戚関係にある幹部候補的な男性・舟木(徳大寺伸)に気に入られていて、仕事帰りにはお茶をするような仲です。
そんな純子と舟木との会話が、スゴいんです。
「お休みの日には、何してるの?」
「はぁ、大抵お洗濯なんかして終わってしまいますワ。でも、お洗濯大好きですから♪」
「洗濯の好きな女か・・・それは、いいナ」
とても年頃の男女の会話とは思えませんww
関東のひとつ残し?
ところが、假名子のお見合い相手がこの舟木だったから大変です。
別に舟木が断れば済む話ですが、問題は「假名子が素敵すぎた」事でした。
舟木は揺れに揺れ、それを見た純子はガッカリ・・・。
とても假名子には敵わないと、早々に身を引いてしまいます。
ところが舟木は、假名子に決めてしまう勇気もありません。
グズグズしているうちに、純子の存在が假名子に知れてしまいます。
それを聞いた假名子はこの話を辞退し、結局 舟木は取り残されてしまうのでした。
純子と假名子は、会社で偶然出会う機会があった事で、お互いに相手の事を優先して遠慮し合います。
それに加えて、假名子は家が世話していた書生から慕われていた事が発覚します。
そして假名子も、実はその書生が気に入っていた、という事に気付きます。
ところが結局その書生は、身分の違いをわきまえて、人に進められた娘との結婚を決めてしまうのです。
そして假名子も、それを止めません。
みんな、遠慮するにも程があるという感じです。
見ていて歯がゆく、美徳なのかヤセ我慢なのか分からなくなってきますが、良く言えばみんな「許容範囲が広い」という事なのかもしれません。
1941年公開
1941年といえば、真珠湾攻撃があった年です。
ただこれは12月8日の出来事です。
映画が公開されたのは4月で、日本はブロック経済攻撃にやられてニッチもサッチも行かなくなり、日中戦争は泥沼化していた頃です。
映画に流れる よそよそしい雰囲気や控えめな態度は、こういう暗黒時代の「自粛」的な空気の現れかもしれません。
このあと映画界は、国策映画一色という感じになって行きます。
「花は偽らず」は、まだ恋愛を扱った映画が上映できていた、ギリギリの頃に公開された作品なのでしょう。
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純子
友人の女の子が彼女の事を敗北主義者だと言ったけれど、手間のかかる女の子で、素直とは言えない子、結果として船木が東北の田舎まで迎えに来た.
それはそれとして、凧揚げの後、二人で純子の実家へ行って結婚の話をしたはず.二人で結婚を決めてから親に話をしたはずです.
假名子
「今年は、お嬢さんも結婚の話で忙しくなるのでは.....」、最初に下宿を訪ねたとき城太郎は言った.
彼女も城太郎に、結婚を考えてるかどうか、聞いてみればよかったのだけど.船木と純子は喫茶店で会ったとき、互いにお見合いの話があると語り合っている.
「船木君の代わりにしては、少し野暮ったいけど」、音楽会に代わりに言ってくれるように頼まれた.
『私、あなたのことを野暮ったいとは思っていない』と、彼女は城太郎に言うべきではなかったか.
「お嬢さんを嫌いな男なんか居るものか」、城太郎がこう言ったのだから、「じゃ、あなたも私を好きなの」と、なっても不思議ではないのだけど.....
「お嬢さんには辛い思いをさせた」、船木のことを話して城太郎はこう言った.假名子はこの時城太郎の気持ちを知っていて、自分も城太郎に辛い思いをさせたことを分っていたはずである.
で、彼女は家に帰って母親に相談して、城太郎との結婚を決めたのでした.先に書いたように船木と純子は二人で決めてから、親に報告したはずです.
食事処の仲居さん
母親に頼まれて、城太郎は船木の気持ちを確かめるために食事に誘った.
船木が純子と假名子の二人のことで迷っていると言う話を聞いて、仲居さん「何か良いお話ね」と言った.
「えげつないかもしれないが、相手が君を避けてるのならちょうど良いのじゃないか.....」
「君こそ、假名子さんと一緒になったら良いのじゃ.....」、城太郎はこう言われても、心は変わらなかった.船木が一緒になる気がないのなら、まだ自分にもチャンスがあるとは考えなかった.船木にはえげつない考えを勧めた城太郎なのだが、彼自身はえげつない考え方をする人間ではなかった.
「それよりも、この前の喫茶店に行こう」
「君はああいう女性が好きなのかい」
.....
「どうだ、良い話だろう」
「だいぶ、ご馳走様でした」
槙枝
この子、どういう女の子なのか?.
彼女、父親のことを聞かれて、山歩きばかりしている父親のことを淡々と話しました.
このような子を、素直な子と言うのです.
「この際ついでだから、槙枝を貰ってくれないか」と、父親は城太郎に頼んだけど、ついでであろうが何であろうが、自分が受け入れられる相手なら、彼女は素直に結婚を望んだと思われます.
城太郎は父親に娘を貰ってくれないかと言われて即座に了承し、槙枝も城太郎の返事を聞いて嬉しかったはずです.そして、突然の話だったけれど、槙枝も躊躇わずに結婚を了承した事でしょう.
さて、もう一度、假名子
日記に挟まれた自分の写真.城太郎の自分に対する気持ちを知って、彼女は嬉しかったはず.
だったら、嬉しい気持ちを相手に言わなくては.....素直とはそれだけの事なのだと思うけれど.
結婚するかどうかは別にして、嬉しかったら嬉しいと言うべきなのではないのか.
『花は偽らず』
『花』とは年頃の女心とすれば、偽らない心、つまり素直な心と言う意味だと思うのですが、どうなのでしょう.