観終わったあと、何か引っ掛かるような、重たい気分を残す「後味の悪い映画」というものがあります。

ただこれは、面白くなかったとか、アンハッピーで残念だったなどという類のものでなく、もっと「考えさせられた」とか「気付きがあった」というような、深い意味での後味の悪さです。

映画というのは、癒やしや高揚感を楽しむといった目的以外にも「問題提起」の役割を持つものだと思います。
そしてそれは必ずしも「ドキュメンタリー」とか「社会派」というようなジャンルに含まれるとは限らないようです。
人間の深層心理のようなものを追求する場合は、むしろホームドラマや人情ドラマの形をとっている作品の方が優れているかもしれません。

この記事では、観終わった後に考えさせられてしまうような、おすすめの「後味の悪い」日本映画をご紹介します。

モラルが欠如した崩壊家庭を描いた「女中ッ子」

「女中ッ子」は、戦後10年を迎えた高度経済成長の幕開けの年に公開された映画です。

何不自由ない平和な中流家庭に、女中として入ってきた農村の娘の目を通して、どこかモラルが欠如したような崩壊家庭の様子が描かれています。
この何かが足りないような空虚な家庭が、女中の娘の活躍で徐々に人間らしさを取り戻し、何かに目覚めていく様には感動させられます。
ところがこの映画は、現実はそう甘くはなくて時代の潮流には逆らえず、結局は呑み込まれていくだけだという危機感のようなものまでが描かれています。

親子の”情”の深さが悲劇を招く「朧夜の女」

「朧夜の女」は、1936年に公開された昭和初期の下町人情を描いた映画です。

一人息子に夢を託して、自分の人生を犠牲にしても尽くす母親と、そういう母親に縛られて苦しむ息子の物語ですが、何とも人情味あふれる作品になっています。
昭和初期にはまだ残っていたらしい“江戸っ子気質”や、家族や隣近所などの繋がりが盤石だった頃の人懐っこいコミュニティの様子が暖かく描かれていて、楽しい気分になります。

ところが親を大切に想いすぎる事が仇となり、悲劇を生んでいく様にはリアリティがあり、これは人間にとって普遍のテーマのような気がしました。

真実に生きられない女の行く末「乱れる」

「乱れる」は、スーパーマーケットの登場により個人経営の小売店が廃業に追い込まれる様を描いた映画です。

ヒロインは酒屋に嫁として来てすぐに、戦争未亡人となってしまった一人の主婦です。

この主婦は、戦後焼け出されたところから酒屋を復興させ、更に店を発展させたというしっかり者です。
ところが、彼女は死んだ夫の弟に愛されてしまった事で悩み、せっかく築き上げたものを捨てて家を去る選択をします。
彼女も弟を愛しているのに、どうしても世間の目が怖くて逃げるように家を出る様には、この女の弱さが浮き彫りになっています。

ところが無事に逃げ果せる事は出来ず、自分を偽る人間には思いがけない“報い”が待っているのでした。

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