女中ッ子

映画「女中ッ子」は、ほのぼの系のホームドラマかと思いきや、意外とメッセージ性の強い作品です。

個人的にはあまり聞いた事のない作品でしたが、公開当時はけっこう評判が良かったようです。
それにしては、最初の冒頭の部分などは相当マッタリしていて、本当に面白くなるまでが けっこう長いです。
おまけに出演者も地味で、映像が美しい訳でもありません。

ところが“我慢して”見続けていると、だんだん「おっ」という展開になり、最後には大変なメッセージを受け取ってしまうのです。
案外 大切なテーマを秘めている映画というのは、地味でとっつきが悪いものなのかもしれません。

「生きる力」を持っている、初(左幸子)


初は、東北の田舎から東京の加治木家に、女中勤めをするためにやってきました。

最初は田舎者丸出しの鈍くさい女の子のように見えますが、実は彼女はこの映画に出てくる他の誰よりも賢く優れている事が分かってきます。

加治木家は一見平和そうな中流家庭ですが、実は問題を抱えています。
夫・恭平(佐野周二)と妻・梅子(轟夕起子)の仲はどこか形式的で愛情が感じられず、親子関係も上手くいっていません。
息子が二人いて、上の子は優等生ですが、次男の勝美はこの家風に馴染めずにいる様子です。
勝美は孤独を癒やしたくて犬を飼おうとするのですが、それがことごとく反対され、それが親や兄、友だちとの悶着に発展していきます。

そんな勝美を救ったのは、女中の初でした。
初は勝美の孤独を癒やし、プライドを持って生きる事を身をもって教えるのです。
一方、両親は勝美に対して無理やり従わせようとするだけで、まったく勝美を理解しようとはしません。
勝美はとことん追い詰められ、とうとう家出してしまいます。

誰にも理解されない孤独な小学生、勝美(伊庭輝夫)


勝美が家出をして向かった先は、なんと初の実家です。

初はちょうど里帰りしていて、事の次第を知りませんでした。
それがちょうど雪の季節で、勝美は危うく吹雪で遭難しかける所でした。

幸い勝美は無事に初の実家にたどり着く事ができましたが、そこでは ちょうど「ナマハゲ」の年中行事がおこなわれていました。
「ナマハゲ」は、今ではその存在を知る人も少ないかもしれませんが、秋田の伝統的な民俗行事として長い間受け継がれてきました。
どんな行事かというと、簡単に言えば鬼のような被り物をした二人の男が、民家を一軒一軒回って「親の言うことを聞かない子供を拐っていくぞ」と脅かすパフォーマンスです。

ところが、そのナマハゲを演じる二人の「マジ度」がすごいのです。
ちょっと「子供向けにしてはやりすぎではないか?」と思うくらい怖いです。
追いかけ方も執拗で、人の家の中でもおかまいなしに、どこまでも潜入していきます。

子供を隠す側も、その気迫に押されてなのか、真剣に参加しなくては失礼にあたるからなのか何とも判断がつきにくいのですが、やはり真剣そのもので隠れます。
最後はナマハゲの演者にお酒を振る舞うのですが、その間も二人は鬼のままで通し、余計な口は利きません。
その演じる側も受け入れる側も、真剣そのものな様子には圧倒されてしまいます。

勝美はこの初の家に来る途中、吹雪に見舞われて危ない目に逢いました。
そういう過酷な環境においては、その日常もどこか死と隣り合わせのような緊張感があるのでしょう。
自然、生きる事への向き合い方も真剣にならざるを得ないのかもしれません。
子供の教育に関しても甘い事は言っておられず、時にはナマハゲのような恐怖の「実力行使」の手段が必要になってくるのだと思いました。

でも ここで生活する人は、たくましくて厳しいだけではありません。
ふいに来訪した「都会の坊っちゃん」を温かく受け入れてくれます。
その様子は、初に対する加治木家の冷ややかな扱い方とは対照的です。
立場が違うと言ってしまえばそれまでですが、どちらが人間として格が上かといえば言うまでもない感じです。

初の助けで色々な経験を積み、勝美はだんだん たくましく成長して行くのでした。

残念な結末

初の尽力によって家庭崩壊の危機を免れた加治木家ですが、残念ながら彼らにはその事が理解できていませんでした。
ラストは、残念ながら悲しい展開になってしまいます。

以前、勝美が母親の梅子のオーバーを持ち出して、子犬のベッドに使っていたのを、初が見つけた事がありました。

初は勝美が叱られないようにと、オーバーを自分の引き出しに隠しておきました。
それを、梅子が見つけてしまうのです。
梅子は、初がオーバーを盗んだという事に疑いを持ちませんでした。
初が今まで活躍してきた「実績」よりも、オーバーが初の部屋にあったという「証拠」を優先させたのです。

結局 梅子は初を解雇するのですが、それはむしろ「心優しい初にすら見放されてしまった加治木家」という風に見えてしまいます。

1955年公開

途中まで感動的な盛り上がりを見せただけに、映画のラストは絶望的で、後味の悪さが残りました。

ヒロインの故郷では、人々が雪国の厳しい生活と戦いながらも、助け合いながら温かいコミュニティを形成していました。
それに対して都会の中流家庭の様子は、とことん「いびつ」に描かれています。

例えば同居している梅子の姪が「押し売り」を断りきれず、脅しに屈して購入しようとする場面があります。
その様子は、何か気持ちの悪いものがありました。
初が断固として断ったのに対して、梅子は「それくらい買っておけば良いのに」という事なかれ主義を発揮します。

夫婦の仲もよそよそしいし、親子は分かりあえておらず、みんな気持ちがバラバラです。
昔ながらの濃密な家族関係が、だんだん「個」の時代へと変化していく危機感のようなものを感じました。

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