「泣蟲小僧」は、小僧というタイトルの割には、4人の姉妹が中心の物語です。

小さな男の子から見た、お母さんや叔母たちの生活が、レトロモダンな香りを漂わせて描かれています。
女性がたくましく、男性がしょぼくれているのは、今に始まった事ではないような、時代が違うのに古臭さを感じないようなストーリーでした。

登場人物たちが貧乏でも小説や絵画、ファッションを楽しむ様子は、文化的な爛熟度を感じました。

ちょっと所帯やつれ気味の、長女と次女

4人姉妹の長女・貞子(栗島すみ子)は早くに夫を亡くし、一人で二人の小さな子供を育てています。

まだ小さい啓吉は、母親が綺麗に身繕いしているのを見て「どこか出かけるの?」と訪ねます。
どうやら男が訪ねてくるらしく、貞子は啓吉に小遣いをやって外へ行かせます。

ところが啓吉は、道端でその“オジちゃん”とすれ違い「おい坊主、買い物かい」と声を掛けられます。
啓吉は、まだ物心のついていない末っ子とは違い、この男に煙たがられているのでした。

男が貞子の家に転がり込んで来ることになり、啓吉は次女の寛子(逢初夢子)に預けられてしまいます。

寛子の夫・勘三(藤井貢)は売れない小説家で、彼が編集社に売り込みに行く様子が笑えます。

待合室には同類のような男がもう一人いて、隣の部屋から聴こえてくる編集者と流行作家のやりとりを、苦い表情で聞いています。
そこへ昔の仲間が現れて口利きしてくれたので、やっと編集者にお目見え出来るのでした。

持ち込んだ作品は「瘰癧(るいれき)のある人生」とか「きりぎりす夫人」という、いかにも当時の文学チックなタイトルです。
本人は自信たっぷりですが、読む前から もうダメそうなのが伝わってきます・・・。

小説はやっぱりダメだったらしく、勘三は料亭でヤケ酒を飲み、グデングデンに酔ってしまいます。
そのうち2人ははぐれてしまい、迷子の啓吉は通りすがりの芸人に拾われて、彼の家に泊めてもらうという始末です。

自分の子供の事で手一杯の寛子たちは、啓吉を妹の家に預かってもらう事にします。

若いモダンガール風の、三女と末娘

寛子の夫は、啓吉を末娘・蓮子(市川春代)の家に連れて行きます。

蓮子は17才なのに、既に結婚しています。
(ちなみに戦前は、女性は15歳から結婚する事が出来ました)

姉妹の中でも一番自由奔放な娘で、結婚といっても「同棲」という感じの暮らしぶりです。
この姉妹はみんなお金に困っていますが、蓮子は特に電気代が払えないくらい困っています。

啓吉を預かってもらうどころか、蓮子に無心を要求された寛子の夫は、すごすごと退散するしかありませんでした。
結局 啓吉は、三女・菅子(梅園竜子)の所へ連れて行かれる事になります。

菅子は姉妹の中では一番しっかりしていて、唯一まともな暮らしをしています。

啓吉も、優しくて明るい菅子が気に入っているようです。
ただ、菅子が啓吉に「誰が一番好き?」と聞くと「お母さん・・・」と答える様子は、何とも言えない気持ちになります。

最も価値観の遠い、長女と末娘のバトル

菅子は啓吉の様子を見かねて、貞子に文句を言いに出かけます。

そこで貞子が「姉妹甲斐のない人たちだね」と逆ギレするのを見ても
菅子は一歩も引かず、貞子にお説教をします。
しまいには「そんな邪魔な子なら、孤児院にでも入れるといい!」と、なかなか残酷な事を言い放ちます。

結局、貞子は「おじちゃんの仕事の事で、遠くへ行くのよ」と、
啓吉に次女の所へ行くように言います。

啓吉は誰もいない家に帰って行きますが、心もとない寂しい気分がひしひしと伝わってきます。
これから、どうなってしまうのか?
どうにも解決のつかないまま、物語は終わってしまうのでした。

1938年公開

この映画が封切られた1938年は「国家総動員法」が制定された年でした。

蓮子のセリフで「いっそ灯火管制がずっと続けばいいのに」というのがありました。
電気を止められたのを近所に知れるのが恥ずかしく、こんな事を言っているのでした。

菅子のアパートでは、ものすごい轟音をたてて軍用機が飛んで行き、近所の人が見物に出ている様子が描かれています。

こんな風に、庶民の日常にも「有事」であった事が端々に表現されているのが、時代を感じさせます。

とはいえ、まだまだ「戦争なぞ、どこ吹く風」という感じで、庶民の日常には呑気な感じがあります。

勘三が料亭でヤケ酒を飲んでいる場面では、飲み屋の情景が不思議でした。
お店に流しの「子供」が入って来て、とつぜん歌い始めるのです。
昔の飲み屋では自由に流しの歌唄いを入場させていて、お客がお金を払えば一曲歌うのを許していたようです。

子供は民謡みたいなのを歌っていますが、発声法が突き抜けている感じで、やけに上手いです。
伴奏者が持っているのは、琴でしょうか?
流しといえば三味線くらいしか見たことが無かったので、珍しい光景でした。

他にも菅子のアパートの様子がスゴくて、おとなりの人の様子が丸見えで筒抜けなのには驚きます。
この頃はみんな開け放しで、お互いの生活が見えても、見られてもOKらしいです。
お隣の会話も丸聞こえで、相当におおらかですww

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。