長い歴史と様々な側面を持つ、特有な文化の大阪を舞台にした映画は、いつも何かしら驚きと発見があります。

そこには標準化の進んだ東京とは ひと味違った、個性のようなものを感じます。

今回は、ある意味 歴史が凝縮されたような「大阪を舞台にした映画」をまとめました。

【細雪】関西のブルジョアジーは「はんなり」といった雰囲気

「細雪」には、船場のお嬢様の『阪神間』に暮らす優雅な生活が描かれています。

ここは物語の描かれている頃あたりは「阪神間モダニズム時代」という名称が付くほど、優雅で華やかなエリアだったそうです。

旧家のお嬢様であるヒロインが、家柄に相応しい男性を探してお見合いを重ねる苦労は、旧式な伝統と新時代の間で揺れ動く難しい立場を象徴しているようでした。

家業が廃れていき、東京へと転勤せざるをえなくなった姉妹が
「東京なぞへ行きたくない」
と言って泣く場面が、とても印象的でした。

彼女たちにとって、このエリアを離れる事は発展途上国へ飛ばされでもするような心境だったのでしょう。

【浪華悲歌】毒のある美しさを醸す、大阪の繁華街

「浪華悲歌」には、昭和初期のレトロモダンな、大阪の街の様子が描かれています。

ところが物語は暗く恐ろしいもので、大人たちの道徳の乱れが娘を蝕み、不良少女へと堕落させて行きます。

娘は華やかな都会生活と、うらぶれた貧乏長屋を行き来しますが、この極端な落差が社会の暗黒面を映しているようでした。

ちょっとホラーチックなテイストながら、大阪の街はモダンで洗練された美しい映像で表現されています。
繁華街やデパート、和洋折衷な高級マンション、小洒落たオフィスの様子などは、今となっては見られない光景です。

西洋と上方文化が絶妙に融合した独特の雰囲気は、斬新なのに趣があって、魅了されてしまいます。

【暖簾(のれん)】大阪あきんどの二代記に見る「商いの真髄」

「暖簾(のれん)」には、大阪商人のあきんど魂が描かれています。

「暖簾(のれん)を守る」という商いの真髄のようなものが、親子二代の奮闘によって表現されていました。

明治から戦後に続くストーリーの面白さは、この親子の『違い』に現れています。

一代目は、ただひたすら先代の言いつけに従い、自分を殺して忍耐を重ねる事で独立を果たします。
ところが戦後に店を引き継いだ二代目は、今までの「やりかた」を踏襲するのでなく、とことん戦略的です。

映画は戦後、秩序の乱れた大阪の様子がエキサイティングに描かれています。
そして、まるでそういう時代と逆行するように『伝統』の良さを強く押し出す方向へ行くところが印象的でした。

【わが町】長屋暮らしの温かい親しみ

「わが町」には、大阪の泥臭い下町情緒と人懐っこい庶民の生活が描かれています。

舞台は河童(がたろ)路地という所で、細い路地を挟んだ味わいのある長屋に、庶民がひしめき合って暮らしています。

長屋は一棟の建物を壁で仕切って個室にしたもので、ここに出てくる「七軒長屋」とは7世帯が入っているという事だと思います。
住人は一つの井戸を共有し、銭湯でともに入浴し、路地や玄関口でおしゃべりをしながら暮らしています。

仕切りの壁は、今なら木造一戸建ての部屋割り程度のものなのでしょう。
主人公のお父さんが娘や孫とモメていると、いつもお隣のオジさんが仲裁に入ってくれますw

会話は丸聞こえらしく、オジさんは事情をすべて飲み込んでいます。
お隣に限らず、ご近所仲間はお互いの家庭の事情をよく知っていて、家族に近い同居人という感じです。

このエリアは空襲で焼き尽くされ、跡形も無くなってしまったそうで、何とも悲しい限りです。

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