「宗方姉妹」は、仲良し姉妹と暴君的な夫との、陰鬱な同居生活を描いた物語です。
主人公は、失業中の夫を気遣いながらバーの経営をして家計を助ける主婦ですが、この結婚は明らかに失敗のように見えます。
そもそも この結婚は、本当に好きだった人が勇気を持って求婚してくれなかったせいで成り行き的に成立したものでした。
こんな風に結婚された夫の方はたまったものではなく、失業中でなくても不貞腐れて当然のような気がします。
妻が愚痴ひとつ言わず、どんなに完璧に”努力”しようとも、結局は素顔を見せてくれないのでは夫が可愛そうになります。
やっぱり家族というものは、極端にいえば“後悔するくらい”ぶつかり合って、それで駄目なら別れるくらいの勇気が必要なのかもしれないと思えてくる作品でした。
本当は頑固な姉、節子(田中絹代)
節子は、昔気質の芯のある女性ですが、どこか本心を隠しているような取り繕った感じが否めません。
彼女は今、ある心配を抱えています。
それは夫が長いあいだ失業しているという事です。
それが同じ失業でも、一生懸命探したり、何か見つけようと懸命になっていたり、朗らかで居てくれたら良いのですが、夫は陰鬱で高飛車で、思いっきり仕事を選んでいるとしか見えません。
おまけに全く妻に悪いという態度は見せず、バーの経営で苦労している節子にねぎらいの言葉ひとつかけてやる心遣いがありません。
それでも節子は文句ひとつ言わず、家庭では謙虚な妻の役を演じています。
ところが、そうして節子がいくら取り繕っていても、なんだか家庭の空気は虚ろで冷ややかです。
そんな節子にも、ただ一人だけ本当の自分の顔を見せる相手がいます。
それは昔から仲良しだった宏(上原謙)で、節子も彼と一緒のときは和やかでリラックスしています。
彼に対しては、夫といる時には感じられない親しみが籠もっているのです。
新しもの好きな妹、満里子(高峰秀子)
節子の家庭には、節子の妹・満里子が同居しています。
満里子は節子とは全く違う性格で、活発で天真爛漫で、自分の感情を抑えたりしない性格です。
だから満里子は、節子たちの仮面夫婦ぶりが耐えられず、いちいち三村に反発してしまいます。
そして それだけでは飽き足らず、クサクサした日などは夜遊びをして節子に叱られたりするのでした。
満里子は久しぶりに宏に会い、彼の事が気に入ってしまいました。
彼の職場を見に行ったり、食事を奢らせたりして、何かと彼の元へ遊びに行くようになります。
じつは満里子は節子の日記をこっそり読んでしまい、節子と宏が心の中で想い合っていた事を知っています。
そして宏に向かって、じわじわと真相を聞き出そうとするのです。
いちいちドラマのナレーションを真似たりする仕草はちょっとメロドラマの見すぎという感じですが、それが何とも無邪気で可愛いです。
そして、崩壊のとき
節子が経営するバーは、最近資金繰りに困っていました。
そこへ宏と久しぶりで再開する事になり、節子は彼にお金を貸してもらう事になります。
そして節子が容易に資金を調達できた事を、三村は不審に思います。
そして三村が問いただして行くと、お金の出処が宏だという事が分かってきます。
三村は、節子が宏にお金を借りたのを黙っていた事をなじり、二人の仲を疑い始めるのでした。
節子はこんな疑いを持たれた事が耐えられず、反論を繰り返します。
ただ三村が疑っているのは、単なる肉体関係の話だけでも無さそうなのです。
もしかすると彼は、もっと深刻な“心”の事を問題にしているのかもしれません。
満里子は「三村の様子がおかしくなってきたのは、節子の日記を読まれてしまった日からではないだろうか」と言います。
節子は満里子に対し、人の日記を読んだ事で叱りますが、問題はそこではないような気がします。
1950年公開
この映画には「本当に新しいものは、古くならない」
という表現が繰り返し出てきます。
それが何なのか?という話は最後まで出てきませんが、
姉の方が日本の伝統的なものに価値を感じ、
妹がアメリカナイズされている事と、どこか関係があるような気がします。
かつては特攻隊にいた男が、今では競馬に狂っている・・・
というエピソードは、それが良いか悪いかは別として
やっぱり「劣化している」という印象が拭えません。
飲んだくれて自暴自棄になった三村と
ヒステリックな怒りが抑えられない満里子の2人が
閉店してしまったバーで、グラスを投げつけるシーンは
何だか尋常じゃない様子です。
そこには、一つの家庭の崩壊を通して
当時の荒んだ社会全体が描かれているような気がしました。
コメント
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芸術とは人の心を現したものである.
音楽は、聞いて感じた心で考えるもの.
文学は、読んで感じた心で考えるもの.
映画は、観て感じた心で考えるもの.
大佛次郎は芸術家で、優れた作品が多数あります.(鞍馬天狗は芸術作品ではありません)
映画化された作品(他にもあります)
『雪崩』 成瀬巳喜男(良い作品なのに、全く評価されず見捨てられました.黒沢明が助監督で、彼は非常に参考になったと言っているそうです)
『帰郷』 大庭秀雄(難しい作品ですが、見事に映画化しました)
『風船』 川島雄三(未見です.DVDになっています)
『宗方姉妹』 小津安二郎(なぜ、もっと素直に撮れないのか)
『花の咲く家』 番匠義彰(映画としては、へたくそでしょうか.簡単な話なので大佛次郎を理解するには良い作品だと思います)
小津安二郎は、おそらく自分では芸術家と思っていたでしょうが、芸術家とは正反対の人間でした.
節子は夫の気持ちを理解しない、酷い女でした.なぜなのか?.
妹の満里子は節子の正反対の女の子だったようですが、どうなのでしょう.
満里子は一人芝居で姉と宏の関係を演じながら、宏の気持ちを引き出しただけでなく、同時に何かをしていました.
何をしていたか考えれば、なぜ、節子が夫の気持ちを理解しない女だったのか分ります.
講和条約締結前にフランスに一般人が行けるわけないでしょう。全くのデタラメ映画です
海外渡航の自由化は1964から。