「妻の心」は、個人商店の嫁になり、家と店の両方を切り盛りしながら成長していく主婦の物語です。
家や店を取り纏めて行かなければならない主婦の苦労が分かる映画でした。
気の弱い夫のお尻を引っ叩いたり、銀行に融資の相談へ行ったり、同業者のノウハウを吸収したりと大活躍で、大変そうですが やり甲斐もありそうな気もします。
パートの仕事などでは味わえない、自分の店を作っていく喜びというのはどういう感覚なのだろう?という好奇心が湧いてくるような作品でした。
まとまりの悪い家族に手を焼く主婦、喜代子(高峰秀子)
喜代子は、薬屋さんの家に嫁いできた主婦です。
喜代子は最近、夫・信二と共にお店の空き地に喫茶店を開く計画を立てています。
昔は盛えていたこのお店も、経営が傾いて来たため何か新しい事を考えなければならない状況になっているのです。
ただ厄介なのは、家族たちの存在です。
姑は喫茶店を開く計画に反対だし、信二の妹の結婚を昔ながらの盛大な婚礼にしたがります。
おまけに店を継ぐ事を嫌い、東京へ飛び出してサラリーマンになった長男までが、勤め先をクビになったらしく転がり込んで来ます。
喜代子はしっかり者なのですが、夫の信二が気が弱く言いたい事が言えないため、いつまで経っても喫茶店の計画が進みません。
気がつけば喜代子ばかりが資金繰りに奔走したり、知り合いの料理屋で料理を習ったりと動き回っています。
それなのに、兄嫁には「喜代子さんは良いわね、こんな家に住めて」などと嫌味を言われるし、姑は兄嫁に甘く喜代子には厳しく接するのでした。
嫌われ役になる勇気のない夫、信二(小林桂樹)
信二は次男で気が弱く、あまり行動力も発揮してくれません。
喜代子に背中を押してもらわなければ、問題から逃げてばかりいます。
信二は、そもそも好きでこの店を継いだ訳ではありませんでした。
長男が家業を投げ出してサラリーマンになった為、仕方なくやっているような所があるのです。
それなのに長男は、経営のイロハも知らないくせに店を開くから開業資金が欲しいとか、長男風を吹かせて分前をもらう権利があるような顔をします。
そこへ母親が畳み掛けるように「兄弟じゃないか」と義理人情を振りかざして来るから、たまったものではありません。
ところが、ここまでされても信二は家族と戦おうとはしません。
キレて見たり、ふてくされて芸者と温泉に行ってしまったりする始末なのです。
喜代子の心の迷い
喜代子は最近、喫茶店の融資の事で親友の兄・健吉(三船敏郎)に会う機会が増えました。
彼は銀行に勤めており、何かと喜代子のために便宜を図ってくれているのです。
じつは健吉は、昔から喜代子が好きだったようです。
喜代子がお嫁に行ってしまったせいか、いまでも独り者です。
喜代子は家のゴタゴタに嫌気がさしており、今となっては健吉と会っている時が一番楽しいようです。
小さな町なので二人の噂も出始めているし、喜代子は信二が芸者と温泉に行った事が許せません。
夫婦の関係は、だんだん危険な状態になって行きます。
ある雨の昼下がり、家の愚痴を聞いてもらっていた喜代子は、健吉に何か告白でもされそうな雰囲気になります。
ところが健吉も気が弱いらしく、人が入ってきたのを見て慌ててそれを引っ込めてしまうのでした。
喜代子と信二は、ある夜言い合いをして険悪なムードになってしまいます。
そこへ信二が突然「好きな人がいるなら、君の好きにしていいよ」みたいな事を言います。
でもそれは見方を変えると「捨てないでくれ」と言っているようにも見えます。
信二の気弱な心の叫びに、喜代子は「やっぱり私がいなくちゃ駄目ね」とでも思ったのでしょうか、気を取り直して喫茶店の計画を一からやり直そうと誘うのでした。
1956年公開
映画では業績は落ちているものの、喫茶店を開いたりして何とかやっていこうという、個人商店がまだ頑張っている時代が描かれています。
空き地で間取りをあれこれ考えているシーンは手作り感満載で、何だか夢があって良いです。
1956年に「百貨店法」という法律が制定されていますが、これは中小企業を保護する目的で制定されたもので、大規模な百貨店の営業に規制を加える内容だったようです。
そして1973年には「大規模小売店舗法(大店法)」という法律も制定されますが、個人経営の小売業の衰えと量販店の躍進を止める事は出来ず、チェーン店が小売を支配する時代になりました。
逆に最近では、ネットショップを開いたり、アマゾンや楽天などのバーチャル市場で手数料を支払いながら出店するという形で、個人が活躍する場が増えましたね。
こういう時代の移り変わりを楽しむのも、古い映画を見る醍醐味だと思いました。
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