「晩菊」は、ひっそりと地味に暮らす中年女たちの赤裸々な感情と、じつは過去には色々あったというノスタルジーが織りなす渋い映画です。

人生も終わりに近づいた女たちの、たくましいながらもやっぱり寂しいような、しんみりした感情が残りました。

女同士や男女間で繰り広げられる「腹の探り合い」のような会話や、子供が巣立った後の母親の哀愁が容赦なく描かれていて、大人のリアルな世界を垣間見る事ができます。

お金しか信じない女、きん(杉村春子)


金貸しと土地転がしを生業としている きんは、ちょっとした資産持ちの中年女です。
耳が聴こえない女中さんとの二人暮らしで、家族はいません。

きんは元は芸者で、昔の仲間たちにお金や部屋を貸しているのですが、みんな貧乏なので取り立てが大変そうです。
お店をやっている相手には「前みたいに逃げられないように裏口から来た」と嫌味を言ったり、給料が安くて家賃が払えないと言われれば「チップがあるじゃないの」と反撃したりして、何とか逃げ道を塞ごうと奔走します。

借りる側は面白くないので、影で独り身で業突く張りのきんを馬鹿にしています。
逆に言うと、きんは昔の仲間に対して真正面から取り立てが出来る性格だからこそ一財を築けたのかもしれません。
資産を築いた後もストイックな暮らしを続け、誰にも頼る事なく独り身を貫いています。

杉村春子さんの出演している映画


その日暮らしのギャンブル中毒、とみ(望月優子)


きんとは対照的な性格の とみは、昔の芸者仲間です。
ギャンブルから男まで、遊ぶ事が大好きで「お金は使う為にあるのだ!」というのがモットーですw

これまた昔の仲間である たまえ(細川ちか子)の下宿に居候させてもらい、掃除婦をしながら何とか生活しています。
底抜けに明るく楽天家で、依存性が高くてグチっぽいたまえを元気づけたりしてあげる優しさを持っています。

とみには しっかり者の娘・幸子(有馬稲子)がいますが、娘にお小遣いをせびる姿はまるで親子の立場が逆転しているようで、ちょっと怖いです。
満州へ行った経験があったり、酒の飲み過ぎで頭がヤラレてしまったとか(!?)、男はちゃんぽん状態だったとか、昔は相当に色々あった人のようです。

最後は、結局ひとり・・・

ところが、とみの娘がいきなり結婚すると言い出し、ある日突然プイと出て行ってしまいます。
同居しているたまえの息子が就職で遠くへ旅立ってしまったのも重なって、二人の生活は急に寂しくなるのでした。

それと時を同じくして、きんの元へは昔の大恋愛の相手が訪ねてきます。
きんが普段の固いオバちゃんキャラから急に“女”に豹変して「イヤン!」みたいな可愛い感じになってしまう所が笑えますw
きんにも こんな面があったのね、と驚く場面です。

ところが相手の男・田部(上原謙)は仕事で資金繰りに困り、金策のために訪問したという事がだんだん分かってきます。
たった一つの甘い夢も儚く消え、きんが田部の写真を燃やすシーンは何とも切ないです。
それでも田部はしつこく迫ってきますが、一気に気持ちが冷めた きんは、いつもの強気なキャラに戻って田部を撃退します。

一方、とみたちの方では「それでも子供は生んどいて良かった、神様は良いものを下さった」と、しみじみと言い合うのでした。

成瀬巳喜男さんの監督映画


1954年公開

きんが住んでいる木造建ての小さな赴きのある家は、文京区の本郷でのロケのようです。

この辺は比較的古い家並みが残るエリアで、筆者もちょっと見に行った事があります。
近くに「樋口一葉旧居跡の井戸」というのがありますが、家屋の方はもう残っていませんでした。

映画では、きんが出てくるシーンはいつもBGMが琴の音色になります。
一方とみ達の出てくる場面はハワイアンだったり、当時の流行歌が流れています。
それが、まるで両者の生きている世界の違いを表わしているようでした。

とみ達と子供らの世代間ギャップもなかなかのものですが、きんに至ってはほとんど「アナザーワールド」というくらい遠いものがあります。
同時代に異世界が混在しているみたいな不思議さが面白く、それぞれが同じ時間を共有しながらも世代交代していく事を実感します。

そしてお互いの境遇や立場の違いから、くっついたり離れたり、いがみ合ったり慰め合う姿には、キャラたちへの温かい眼差しが伝わってきました。

ラストにとみがモンローウォークを真似して笑わせてくれますが、この映画が公開された年にちょうどマリリン・モンローが来日していたようです。

【追記】
田部がきんに言った

「君と、柴又の川甚に行った事があったっけかな。
えらい雨に降りこめられて、飯のない鰻 食ったっけね」

というセリフに出てくる「川甚」というお店が、今まで営業していたのに、つい最近 廃業になってしまったという事を知りました。

こういう何百年と続いた老舗の廃業ともなると、単なる世代交代では説明できない得体のしれない力が働いているような気がしてしまいます。
日本の優れた文化が失われて行くのを見ると、寂しさを通り越して脅威のようなものを感じます。

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