「人生のお荷物」は、初老のお父さんと、その家族たちを描いたホームコメディです。

この映画のスゴい所は、何よりも初老の「おっさん」が主人公だという所です。
それでいて別に男性向けの映画という訳でもなく、優雅で都会的な家族生活を送る女性たちと、子供の生き生きとした様子が描かれています。

すでに嫁いでいる長女と次女、そしてこれから結婚する三女たちの賑やかな日常が描かれる一方で、所どころに年老いたお父さんの哀愁が見え隠れします。

とはいえ、それがしみったれた感じではなく どこか品のある「レトロ・モダン」調なコメディに仕上がっているところが楽しい作品です。

活発で派手好みのモダンな奥さん、逸子(田中絹代)

画家と結婚している次女の逸子は、夫を上手に操縦しつつ、実家からお小遣いをもらって派手に面白おかしく暮らしています。

一方で長女の高子(坪内美子)は、ちょっと古風な感じです。
この頃の女性は、家庭に入ると日本髪に結うという習わしがあったようで、和服に日本髪という出で立ちです。

この姉妹は二人共ちょくちょく実家に来ているらしく、今日も実家でおしゃべりをしています。

高子はいつもの夫婦喧嘩の真っ最中で、逸子に愚痴をもらしています。
末娘の嫁入り準備に付き添ってデパートに行った時、自分のものまで買った事で夫に文句を言われ、衝突したのでした。

それに対し、逸子が助言を与えます。

「男って見栄を張ってるけど、本当は女に買い物させたくないのよ。
だから逆手を使わなくちゃだめなの」

逸子の言う逆手とは何かというと、どうやら男の方から「買ってもいいよ」と言わざるを得ない状況に持っていくのがコツらしいです。

女同士の会話は楽しげで、高子は母親に“美容ホルモン”なるものを勧めたりします。
松竹映画では毎度おなじみの「クラブ乳液」の登場です(笑)
「お母さんも少し若返った方が良いわ♪」などと、女4人でキャッキャ楽しそうです。

そして逸子の夫操縦法は、夫が義理の兄と女遊びに出かけようと企んでいる場面で発揮されています。
夫は展覧会に行くのだと言いますが、これを簡単に見抜いて自分も一緒に行くと言い始め、義理兄はおずおずと帰って行くのでした。
逸子は「これで良し、と」と一人つぶやくのでした。

田中絹代さんの出演している映画


お父さんが苦手な末っ子、寛一(葉山正雄)


遅がけに生まれた末の弟・寛一は、まだ小学生です。

逸子には既に赤ん坊がいる事を考えると、3姉妹とはかなり年が離れています。
父親と並んだ所は、どう見てもおじいちゃんと孫という感じです。

そして あまりにも年が離れすぎているせいか、この親子は何だかよそよそしい感じです。
お父さんは寛一にあまり関心が無く、特別かまってやる風ではありません。
そのせいか、寛一の方でも父親を避けるようになっています。

お父さんは、寛一の為に70才近くまで働かなくてはならない事を負担に思い「いっそ養子に出してしまおう」と言い出します。

そして、それに反対する奥さんとの間で対立が起こり、二人は別居する事になってしまいます。
当の寛一は、どうして自分が母親と家を出なければならないのか、全く理解していないのですが・・・。

葉山正雄さんの出演している映画


ちょっと可愛そうな、お父さん

奥さん(吉川満子)が出て行ってしまった後、お父さんは面白くないので一人で夜の街に繰り出します。

バーにはドレス姿や和服に日本髪の女給さんたちがいて、不思議な和洋折衷のレトロ感が漂っています。
そして、ボーイの人までがノリノリで楽しげな様子なのが印象的です。

お父さんが独りで飲んでいると、そこへ寛一よりも小さな男の子が花を売りに来て、それを見たボーイにつまみ出されてしまいます。
その様子を見たお父さんは、ちょっと心を惹かれたようです。

そこへ、お父さんの勤める会社の部下たちが入って来ます。
お父さんがゴキゲンな調子で声を掛けると、部下たちは最初「ゲッ!」という顔をしますが、すぐに取り繕って笑顔で応対します。
そして、いつもより良い酒をオーダーしたり、上司のご機嫌を取る事も忘れません。

お父さんが「もっと面白いところはないかね?」と尋ねると、部下たちは調子に乗って芸者さんのいる「お茶屋」をおねだりします。
だんだんブルジョアっぽくなってきた感じですが、この時代はまだプチブルがお茶屋へ行ったりする時代だったようです。

ところがそこには、自分の事をやたらと「お父さん、お父さん」と呼ぶ芸者がいて、年を尋ねてみたら19才だと言います。
お父さんは自分の年齢を思い知らされたのか急に醒めた様子になり、一人でサッサと帰ってしまいます。

取り残された部下たちは慌てふためき、ちょっと気の毒な感じでしたw

五所平之助さんの監督映画


1935年公開

「人生のお荷物」は、再公開の時に大幅なカットをされてしまったそうです。
どうりで、唐突に終わってしまうという妙なラストでした。

三女の婿である中尉・橋本公正(佐分利信)が出てくるシーンが、丸ごと削られているらしいのです。
軍人さんのエピソードという事になりますが、何か都合が悪い情報でもあったのでしょうか?

時代背景から言って「GHQによる言論統制」でしょうか?
だとすると、こんな他愛のないコメディ映画までカットしなければならなかった占領政策の徹底振りが、恐ろしいようです。
カットなどされると余計見たくなるのが人情ですが、いったい何が描かれていたのでしょうか?

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