「愛染かつら・総集編」は、一人で子どもを育てながら、苦難を乗り越えて自立していく女性のサクセスストーリーです。

母子家庭という厳しい境遇から、人に頼らずに友情、恋、仕事という全てを勝ち取って行くヒロインの姿は、当時としてはセンセーショナルだったと思います。

恋人とすれ違うシーンは、主題歌が流れたりして盛り上がる演出になっていて、現代のトレンディドラマの走りという感じがしました。
何かと制約が多いような女の人生も、本当は思い込みを捨てる事で「もっと思いのままに生きられるのではないか?」という可能性を感じさせてくれるような、相当ぶっ飛んだ映画でした。

熱い情熱を秘めた看護婦、かつ枝(田中絹代)


高石かつ枝は、小さな子どもを育てながら看護婦をしています。
一見おとなしそうに見えますが けっこう芯は強くて、さまざまな逆境を自分の力で切り開いていくガッツのある女性です。

かつ枝は、親が反対する相手と結婚したために苦しい生活を強いられ、おまけに夫には先立たれてしまいました。
生まれたばかりの子どもを一人で育てなければならない彼女は、子どもを姉に預けて看護婦の仕事をしています。

そしてかつ枝は、病院の御曹司である医師・浩三(上原謙)と恋に落ちる事になります。

ある日二人が往診に出向いた帰り、彼女は浩三にお墓参りに付き合って欲しいと頼まれました。
お寺には菩提樹があって、浩三はこの菩提樹にまつわる伝説の話をします。
その伝説とは、この「愛染かつら」と呼ばれるかつらの木に触れた二人は、たとえ一度は引き裂かれようとも、必ず最後には結ばれるという言い伝えでした。
そして浩三は、一緒に菩提樹に触れて欲しいと告白するのです。

かつ枝は病院の規則に反している為、子どもがいる事は隠しています。
一方 浩三は親が勝手に決めた縁談を断るため、独立しようと考えているのでした。

かつ枝とともに京都へ移って開業する決心をした浩三は、かつ枝と駆け落ちをする覚悟で京都へ向かいます。
ところが かつ枝は子どもが病気になってしまい、待ち合わせの時間に行く事が出来ませんでした。

田中絹代さんの出演している映画


留学帰りのスーパーお嬢様、通子(桑野通子)

浩三の親が決めた結婚相手・通子は、アメリカの大学を休学してお見合いのために一時帰国してきました。
彼女は快活で陽気で、けっこう破天荒なお嬢さんです。
服装も派手好きで、肩を思いっきり出したドレスやドラゴン模様のついたドレスはかなり奇抜です。

浩三はかつ枝が来てくれなかった為、仕方なく実家へ戻り、見合い話が進められる事になりました。
実は浩三の父親の病院はいま危機的な状態で、浩三と通子との結婚話の裏には相手の家に資金を融通してもらおうという思惑があるのでした。

ある日、通子の元へかつ枝の仕事仲間がやってきます。
この仲間たちは、内緒で浩三とかつ枝が相思相愛な事を打ち明けます。
通子は浩三が気に入っていたようですが、この話を聞いて彼との結婚を躊躇し、自らかつ枝に会いに行きます。
なんと通子は、かつ枝に「遠慮はいらない」みたいな事を仄めかして、早々に立ち去ってしまいました。

桑野通子さんの出演している映画


思いもよらない展開

浩三はかつ枝に裏切られたと思っているので、通子との結婚はだんだん現実味を帯びてきています。

ところが、かつ枝は偶然にも再び道子に出会う事になります。
道子があまりにも親身に聞いてくれるので、かつ枝は全てを打ち明けてしまいます。
そして事の次第を聞いた道子は、この結婚には無理がある事を悟ります。
こともあろうに父親を説得して病院への融資を願い出た挙げ句に、自分は浩三との結婚から身を引くのです。

その頃かつ枝は すでに病院を辞めており、自活の道を探っていました。
そこへ兼ねてから得意だった音楽関係の募集で抜擢され、歌手として活動し始める事になります。
そして歌手として急速に成功した かつ枝の元に、全てを知らされた浩三が現れ、どうやら“愛染かつら”の伝説通りになるのでした。

1938年公開

この映画は、正直かなり非常識なストーリーだと思いました。
看護婦をしていたヒロインが急に歌手として成功したり、ライバルの見合い相手が自ら譲歩して融資までしてくれたり、恋愛の相手が子どもがいる事を知っても心変わりしないなど、社会の厳しさや人間心理にリアリティがありません。
どちらかと言うと、なぜこの映画が空前のヒットを飛ばしたのかという背景に興味が湧きました。

この映画が作られた頃というのは、まだ女性の社会進出がままならないような時代だったと思います。
よく、昔は女性の職業は教職と看護婦くらいだったという話を聞いたものです。
同時代の他の映画を見ていても、女の人生というのは大概は結婚するしか選択肢が無いと相場が決まっています。
女性にとっては かなり肩身の狭い、生きづらい社会だったのではないでしょうか。

こういう時代の中で、ヒロインのかつ枝が規則に違反して看護婦になったり、身分の違う男性と恋に落ちたり、自分の才能を生かして成功していく姿は、当時の女性にとっては少々非現実的だろうと心理的な壁をぶち破る勇気を与えられたのではないでしょうか。

そういう意味では、現代の女性にも「常識の壁」「他人の中傷」「家族の束縛」など、夢の実現を妨げる要素は相変わらず存在します。
こういうちょっと「あり得ないような映画」がヒットしない今の風潮は、逆にチャレンジ精神が乏しくなっている良くない傾向なのかもしれないと思いました。

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野村浩将さんの監督映画


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