「この二人に幸あれ」は、若い二人が恋愛結婚で親の反対に会い、自分たちだけの力で生きていく物語です。

恋愛結婚について、かなり現実的な事を教えてくれている映画だと思いました。
最初父親が反対した時は、随分もの分かりの悪い親だなと思いましたが、それは話が進むにつれて筋の通っていた事が分かって行きます。

それは、まだ娘には”人間の器”を判断する能力がないので、親は子供を露頭に迷わせない為に配偶者を選定する義務があると考えているのでした。
そして、それが嫌なら苦労をいとわない、親をはじめ人の助けを必要としない“強さ”が必要になってくるので、こんどは逆に手を差し伸べてはいけないのです。

結局、結婚は“他力にすがる”か“自立する”かの二択しかなくて、恋愛結婚にはそれ相応の覚悟が必要なようです。
その辺はけっこう真実が語られている良心的な映画で、どうも世間では恋愛結婚をもてはやしすぎる傾向があるような気がしました。

恋を選んだ、雅子(白川由美)


OLの雅子は、まだ夢見がちな所が残る娘です。

同じ部署で働く久夫(小泉博)が好きですが、ただ想っているだけです。
どうやら久夫もそうらしいのですが、久夫に縁談話が持ち込まれた事で二人の距離は一気に進展します。

久夫の縁談相手は会社のお偉いさんの娘で、出世するには絶好のチャンスです。
久夫はちょっとためらったようですが、この話を蹴ってハッキリ断る為に雅子に突然の求婚を申し出ます。
雅子はプロポーズされて嬉しい反面、久夫が縁談を断ったという事が気にかかったようです。

そして、二人の結婚には”父親の反対”という障害が待っていました。
雅子の父親が娘に寄せる想いは、かなり濃厚なものでした。
父は期待していた長男を病気で亡くした上に、長女にも背かれてしまった経験があります。
雅子にだけは自分の眼鏡に適う相手と結婚させたいと強く願っていたのに、久夫は父が認めるような男ではありませんでした。

父は何とか諦めさせようと説得しますが雅子の決心は固く、話は決裂してしまいました。
結局は雅子も姉と同じく、父親と喧嘩したまま結婚生活に入る事になったのです。

頼もしくて時に厳しい、お姉さん(津島恵子)


雅子の姉は、親が反対する結婚をした事で実家とは縁が切れた状態です。
旦那さん(三船敏郎)はホルン奏者で、生活は厳しそうです。
ところが姉には、悲壮感が全くありません。
どこか優雅にすら見えます。

雅子にとっては良き理解者で、久夫との結婚を後押ししてくれる ただ一人の味方です。
困った事や悩みを相談に行くと、いつも「それくらいで参ってどうする!」と笑い飛ばされてしまいます。
久夫が結婚前と態度が変わったとボヤけば「男なんて、道端の空き缶みたいに あちこちで蹴り飛ばされてるんだから、家の中くらい優しくしてやりなさい」と、言うことが堂に入っています。

危うい空気が漂う

ところが久夫は、だんだんテンションが下がってくるし、何か考え事をしているようです。
雅子はあるとき、会社の同僚から久夫が会社を辞めた事を聞かされます。
久夫は、自分が断った縁談を受けて上司になった奴が気に食わず、酒の席で殴り合いの喧嘩をして辞めさせられてしまったのです。
その事を雅子に言えず、会社に行く振りをして毎日職探しをしているのでした。

雅子は何も相談してくれない事に不満を抱きながらも、自分の勤め先を見つけてきましたが、久夫に反対されてとうとう頭に来てしまいました。
久夫の不機嫌な様子から、縁談を断って自分と結婚したために苦労させられ、後悔しているのではないかと感じて悲しくなってしまったのです。
しまいには父に頼ろうとする雅子に、今度は久夫がキレてしまいます。

雅子は初めての夫婦喧嘩をして家を飛び出し、姉の家に逃げ込みます。
ところが、姉の対応は厳しいものでした。
「もしかして家出してきたの?」と、まともに取り合ってもくれません。
姉の助言がすごくて「人間、水さえあれば3ヶ月は生きられるのよ」なんて言われてしまいます。
さすがは駆け落ちの先輩である姉は、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたようです。
旦那さんの方からも「旦那さんの気持ちも分かるな」と突き放されてしまいます。
貧乏には女性の方が敏感に反応してしまうものですが、夫の方では妻が働いて埋めるよりも、貧苦に耐える方向で頑張ってもらいたいという気持ちがあるようです。

1957年公開

この映画が公開された1957年から1958年にかけて「なべ底不況」という不況があったようです。

脅威のデフレスパイラルを経験してしまった平成人からすると大した事もないような気がしますが、その前の1954年から続いていた神武景気というのは日本国始まって以来の好景気で、この辺りから高度成長成長期に突入していきます。

結局はこの不況も「なべ底」にはならず、この後も好景気が続いていきました。

銀行に勤めていた友人が露天商をやっているとか、新卒で得た職を失ってしまったら即 肉体労働という話は、時代的には「どうなんだろう?」という気もしますが、いつの時代もそれなりの職を得るのは大変だという事かもしれませんね。

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