浅草というと、今ではレトロな下町エリアで、多くの外国人が訪れる観光地というイメージだと思います。

ところが昔は、演劇やレビュー、映画など娯楽のメッカのような所で、とくに戦前は新しい文化の発信地だったようです。

そんな浅草も時代とともに目まぐるしく変わり、昭和らしい雰囲気が珍しくなった今となっては、昔懐かしい下町の風情を残す存在として親しまれるようになりました。

今回は、浅草の移り変わりがわかるような、当時の様子が描かれた映画をまとめました。

【乙女ごころ三人姉妹】戦前の和洋折衷なレトロモダン

「乙女ごころ三人姉妹」には、戦前の浅草と、そこに暮らす芸能を生業にする娘たちが描かれています。

日本髪に着物をまとって三味線を弾く、門付(かどづけ)という「流し」の娘たちと、西洋風の「レビュー」の踊り子であるモダンガールが、同じ家庭に同居する様子が、何とも面白い光景を繰り広げています。

町並みも、西洋建築の前を帆掛け船が通り過ぎるという隅田川の光景や、その船の中に「営業ガール」がいて試供品を配っていたり、いろいろと不思議な光景が繰り広げられます。

舞台は夜の街を中心に繰り広げられ、どちらかと言えば浅草の艶めかしい面が紹介されていますが、女の子たちがロリータ的な幼い娘たちな所が、当時の厳しい側面を物語っているようでした。

【もぐら横丁】全盛期の華やかな賑わい

「もぐら横丁」には、長いこと貧乏暮らしをしてきた夫婦が、成功した暁に浅草へと繰り出す様子が描かれています。

映画の舞台がずっと路地裏の貧乏長屋なので、2人が浅草に出ると、そこはパッと賑やかな別世界のように映ります。

1953年当時の浅草には、立派な劇場が所狭しと濫立していて、その数は今どきのシネコンどころの騒ぎではありません。
そして さらに驚くのは、そこへ押し寄せる人混みの凄さです。
まさにお祭り騒ぎの賑わいで、お互いを見失ってはぐれかけ、二人が人の波に流される場面はけっこうヒヤっとしますw

その臨場感あふれる様子は、今から見てもなかなか新鮮で楽しそうです。

【下町】ちょっとしたレジャーランドの様子

「下町」には、地方から職を求めて上京してきた母子が、しばしの休息に浅草を訪れる様子が描かれています。

浅草寺へお参りしたあと遊園地で遊び、帰りに映画を見るというのが、どうやら親子連れには定番のコースのようです。

娯楽が少なかったこの頃では、浅草行きはかなり盛りだくさんなイベントだったのでしょう。
子どもは大喜びです。

この頃の浅草は、特にファミリー向けとか若者向けとか大人向けなどの区別なく、どの年齢層でも楽しめるような趣向の幅が広い場所だったのではないか?と思いました。

【続・夫婦百景】ちょっと寂れた下町風情

「続・夫婦百景」は、若い夫婦が結婚記念日の企画として、恋人同士だった頃の浅草デートコースを再現するという物語です。

50年代も末期の本作品では、20代のオシャレな男女から見た浅草は、もはや下町の代名詞という雰囲気です。

「社会人になる前の、懐が寂しかった頃の思い出の場所」
として、庶民の細やかなデートコースとして描かれていました。

この頃あたりから最新流行の文化はアメリカナイズされた「銀座」へとシフトして行き、更には新宿や渋谷などへ分散していったという流れではないでしょうか。

とはいえ隅田川を走る水上バスの様子も出てきて、まだまだ活気は充分という感じです。

文化発祥の聖地「浅草」

その歴史を辿れば、浅草は常に時代の最先端にあって、新しい文化を育んできた場所だった事がわかります。

江戸時代には「粋」文化の発信地だった吉原があり、明治期には演芸場や劇場などの近代的な文化が育まれました。

明治23年に竣工した当時の日本で最も高い12階建ての展望塔『凌雲閣』には、日本初の電動式エレベーターも備えられていて、東京の注目観光スポットでした。

大正時代には「オペラ」の一大ブームも巻き起こっています。

そして昭和に入ると、東洋で最初の地下鉄駅として「浅草駅」が開業します。

この頃はデパートも実験的な試みを盛んにやっていて、屋上を遊園地のようにした当時の様子は「乙女ごころ三人姉妹」に描かれています。


そして戦中も、歓楽街である「六区」を中心にお笑いや舞台、ストリップから映画館と、一大エンタメの拠点として賑わいました。


そのあと東京大空襲を受けたにもかかわらず浅草は蘇り、ちょうど「もぐら横丁」あたりの50年代に最盛期を迎え、遊園地や複合娯楽施設までできるようになりました。

そして中世から現代にかけて、常にサブカルチャーのトップを走り続けた浅草も、60年代に入るとその勢いに陰りが見え始めます。
それは大衆文化が、テレビという それまでとは全く異質の媒体へと集約されて行った過程と、無関係ではなさそうです。

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