• 流れる

    映画「流れる」は、芸者を住み込みで抱えておく『置屋』という所が舞台です。

    登場人物は熟女たちが中心なので、全体的にシブい感じの作品です。
    ところが、彼女らの一風変わった共同生活と、愛着と憎悪が絡み合ったような複雑な人間関係には目が離せないような面白さがありました。

    一見仲良しで楽しそうに見えても、内心では相当な葛藤があるというギャップには、素人の女性には敵わないようなが凄みを感じます。

    どこまでが本心で、どこまでが演技なのか分からなくなってしまうような、彼女らの世渡りの技術力の高さに感心してしまいました。

    「楽しむ事こそが人生」という、染香(杉村春子)

    染香は、20才も年下の男と同棲しているという年配の芸者です。
    世渡り上手というのか、ただのお調子者なのか、結構しょうがないけど どこか憎めない人です。
    絵に書いたような「たくましいオバちゃん」キャラといった感じで、ツッコミどころ満載です。

    彼女は男と同棲しているので「通い」なのですが、こっそり置屋に置いてあるのものを失敬したりする姿が笑えます。
    置屋のオーナーである つた奴にはふだん愛想良くしていますが、心の底では積もる恨みもあるようです。
    おまけに つた奴の腹違いの姉・おトヨには借金があり、彼女が訪ねてくるとそっと隠れたりします。
    そしておトヨの陰口をたたいている所を見つかって、仕方なく愛想を振りまきますが、しっかりバレていて「声の使い分けが上手ね」と皮肉を言われたりします。

    そんな染香も、どこからもお呼びが掛からない時には、ちょっとシュンとしてしまいます。
    そして一生懸命に電話で営業をかけたりしますが、やっと声を掛けてくれたお座敷も帰ってくる頃には「あーつまんないお座敷だった!」と文句を言う様子が、また笑えます。

    杉村春子さんの出演している映画


    美味しい所を持っていくのが上手な、お浜(栗島すみ子)

    染香の通っている つた奴の置屋は、営業が不振な上に借金があり、最近では経営が傾いてきています。
    一方で、つた奴の姐さん分である お浜は、かつて同業だった つた奴に大きく差をつけていて、今では置屋を料亭にして かなり成功している様子です。
    一見親切そうに見せていても抜け目がなく、いかにもデキる女という感じです。

    お浜の甥は つた奴のコネで代議士の秘書になっており、お浜を支える人材の一人になっています。
    お浜は組合の役員でもあるようだし、つた奴は彼女に頼り切っていて、何でも相談するような間柄です。
    お浜の方でも いつも親身になって相談に乗ってあげるし、代議士の秘書である甥を つた奴の娘と結婚させたいなどと言います。

    ところがこの お浜は、実はつた奴を助けるどころか、彼女の店を乗っ取るつもりでいる事が分かってきます。
    それも下手な手を打ったりせず、つた奴が自滅していくのをじっと待ち受けているような感じです。

    栗島すみ子さんの出演している映画


    元同業者どうしの「共食い」

    つた奴という芸者は、芸者としては一流だったようです。
    たぶん、お浜よりも売れっ子だったのではないでしょうか。
    ところが彼女は経営には不向きで、男関係やお金で失敗するし、抱える芸者たちもあまり質が良くないようです。

    しまいにはお抱えの芸者の親族に脅しをかけられて、警察沙汰にまで発展してしまいます。
    なぜ警察沙汰になったのかは ハッキリと描かれていませんが、どうやらお浜の甥が警察に持ち込んだらしいのです。
    なのにお浜は、つた奴に素知らぬ態度で接するどころか、相変わらず「力になってあげる姐さん」を演じるのです。
    そしてつた奴は、そのカラクリを見抜く力はありません。

    一方で染香は、男に捨てられた勢いで つた奴と大喧嘩し、捨て台詞を残して置屋を飛び出します。
    ところが他の家では上手く仕事が取れなかったらしく、ほとぼりが冷めた頃、彼女はつた奴に頭を下げて「また置いて欲しい」と言うしかありませんでした。
    染香としては、いくらお調子者であっても相当に屈辱的だったでしょう。
    それなのに、つた奴の家は そのうちお浜に乗っ取られてしまう運命にあるのです。

    1956年公開

    この映画は、往年の大女優が数多く出演しているのが見どころなのですが、その中でも特に異彩を放っているのは「お浜」を演じる栗島すみ子さんです。

    この頃は既に引退して踊りの師匠をやっていたそうですが、特別に出演してもらったそうです。
    どうりで、子供に踊りを教える場面が堂に入っていると思いました。
    これまたベテランである成瀬巳喜男監督を「ミキちゃん」と呼び、セリフを一切覚えず現場入りしたエピソードは、映画業界の語り草になっているそうです。

    栗島すみ子さんはサイレント映画時代の伝説の女優なので、知っているのは業界人かマニアくらいかもしれません。
    私は小津安二郎監督の「淑女は何を忘れたか」で観て始めて知りましたが、1937年の映画でありながら、彼女はその頃から既に貫禄たっぷりでした!
    栗島すみ子さんは、日本における「グレタ・ガルボ」のような存在なのかもしれません。

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    成瀬巳喜男さんの監督映画




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