「青春怪談」は、男勝りでガッツのある女と、何事もキッチリ細やかな男の物語です。

慎一と千春の結びつきは、お互いに“男らしい生き方”とか“女らしい生き方”という縛りから逃れたいという意見が一致したのがキッカケですが、特にそういうハッキリとした理由が無くても、やはり自分にピッタリ合った伴侶を見つけ出すというのは容易な事では無いと思います。
そしてもっと言えば、人生の目的を発見するのも容易な事ではないと思います。

このどちらも上手く見つける事ができれば、人生はかなり楽しいものになるのではないでしょうか。

芸術に情熱を燃やす女、千春(北原三枝)

千春は男勝りな娘で、一流のバレリーナになる事を人生の目的としてハッキリと意識しています。

彼女は最近、大役に抜擢されるなど活動が軌道に乗ってきたため、もっと練習に励みたいと思っています。
でも練習所が遠くて通学に3時間もかかってしまうので、もっと近くに下宿がしたいのです。

千春の家庭は生まれて間もなく母親が亡くなり、その後は父が独りで彼女を育ててきました。
千春は父を独りにするのが心配で、幼馴染の慎一の母親と縁組してはどうかと考えるようになります。
慎一の母親も夫を亡くした寡婦であり、気心の知れた慎一の母親ならば安心だと思ったのです。

千春は慎一に協力してもらって二人を結びつけようとしますが、肝心の父親には再婚する意志がありません。
それどころか、慎一の母親は千春を慎一の嫁にもらいたいと思っており、千春の父親もそれには大賛成です。

ところが千春には結婚の意志など全く無く、それはむしろ彼女の夢である一流のバレリーナになって世界進出する目的の妨げになると思っているのでした。

北原三枝さんの出演している映画


宇宙人的な合理主義者、慎一(三橋達也)


千春の幼馴染である慎一は、とても合理的に物事を捉えて生きています。
彼はゆくゆくは事業を立ち上げたいと思っており、大学では経営の勉強をしていました。

母親が子供のような人なせいか、彼は一日中精力的に活動しています。
家計や時間割、献立はすべて計算されていて計画的だし、料理や家事も彼が一人でこなします。

ただ彼は、計算や論理は得意でも、どうやら人を見る目が無いようです。
父がやっていた病院は現在人に貸していますが、経営を任せている人に才覚はなく、徴収できる家賃はどんどん値下げせざるを得ない状況です。

そして慎一自身は、利益率が良いと見込んだパチンコ屋を営んでいます。
彼は更にこのパチンコ屋を売却して、今度はバーの経営に乗り出そうと計画している所です。
ところが、ここでもまた慎一は人間関係に悩まされる事になります。

まずバーを開店するにあたって、共同経営者に選んだマダムが慎一の事を気に入ってしまい、面倒くさい事になってしまいます。
彼女は、慎一を落とそうと誘って来たり、慎一が女性に近づくと嫉妬でヒステリーを起こしたりするのです。

そしてパチンコ屋は、ある芸者が買ってくれる事になっていました。
ところが慎一は、この芸者にも結婚相手として見込まれてしまうのでした。
そして結婚を断ったら、今度は店の買値を大幅に下げる要求をして来たりして、なかなか話が思うように進みません。

三橋達也さんの出演している映画


面倒くさいから結婚するという感覚

慎一は女たちの感情が理解できず、だんだん彼女たちの相手をする事に疲れて来ます。
一方千春はバレエの上達がままならず、ちょっと気持ちが焦り気味です。

二人は親たちの結婚話で頻繁に行き来するうちに、お互いの価値観が一致している事に気付き、一緒にいると安らぎを感じ始めます。
千春は「自分たちが結婚したら、父親も折れてくれるのではないか?」という目的の元、いっそ慎一と結婚したらどうだろうと考えるようになりました。
二人とも自分の目的に一心不乱で、結婚の事など考えていませんでしたが、お互いに「この人なら」と思ったようです。

慎一も千春も、恋愛感情など煩わしいといったタイプで、どちらかと言うと周りとのあまりの“違い”や“逆風”が、価値観の一致する二人を結びつけたように見えます。

1955年公開

若い二人が独立しようと必死で頑張り、世知辛い世の中で悪戦苦闘する様や、恋愛するエネルギーが無駄という合理的で醒めた感覚は、時代を越えて現在の感覚によく似ていると思いました。
”親たちを結びつける”というハッキリした動機でもなければ、結婚する意味すら見いだせないといった風です。

親世代の方が呑気で情熱的という所も今ではよくありそうな話で、親たちは子供たちからするとヌルい感じに映ります。
親の話をまとめ上げて、あれこれ世話を焼いてあげる子供たちの姿は、厳しい時代に生まれてしっかりせざるを得ない現代の若者を見ているようです。

そして、結局は人に頼ろうとするバーのマダムや芸者は、常に目先の利益に踊らされるばかりであまり面白そうには見えません。
言ってしまえば、感情やお金の奴隷のようです。

こうならない為にも、流されるのでなく自分を見つめなければ・・・と戒められるような作品でした。

市川崑さんの監督映画


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