「私の兄さん」は、義理の兄弟同士の微妙な間柄を描いた物語です。
 
最初は、いい年をしてダダをこねてばかりいる主人公が見っともないように感じました。
ところが彼は、自分より更に危なっかしいような娘との出会いで、徐々に頼もしくなって行きます。

人は共鳴できる相手と出会うと、時間は関係なくたちまち打ち解けてしまうものだと思います。
そういう時の開かれた気分が軽快なタッチで描かれていて、晴れ晴れとした明るい気分になりました。

帰ってきた腹違いの弟、文雄(林長二郎)

文雄は、タクシー会社の御曹司です。
でも彼は家業が面白くなく、悪い仲間と遊び歩くようになって、ほとんど家を捨てたも同然の暮らしをしていました。
ただ彼は、根っからの悪ではありません。
彼の家での立場と母親の態度が、彼を素直にさせてくれなかったのです。

彼の母親は、後妻という事でひどく気兼ねをしています。
おまけに義兄の重太(河村黎吉)は落ち着いていて優しく、会社の経営にも成功しているという非の打ち所のないような人です。
一方で文雄はあまりデキるタイプでは無く、何かと兄と比べられたり一歩譲らなければならない立場が面白くありません。

本当は彼の母親を慕う気持ちは人一倍で、母親が病気になってしまった事を耳にして心配して家に戻ってきたのでした。
ところが文雄は、やっぱり母親に歓迎されません。
久しぶりで戻ってみても、相変わらず我が家は文雄にとって居心地のいい場所ではありませんでした。

林長二郎さんの出演している映画


トラブルメーカーのお嬢さん登場(田中絹代)

それでも文雄は、病気の母親を元気づけようと真面目になって仕事に戻ろうとします。

ところが最初に載せたお客が、またもや彼にトラブルを持ち込んでしまいます。
ちょっと怪しげな二人組の男は、人を連れて来るから待っていて欲しいと言います。
そして彼らを待っている所へ、若い女性が血相を変えて「助けて!殺される」などと言って、逃してくれるよう懇願するのです。
文雄は最初迷いましたが、ちょっと放っておけないような様子なので、仕方なく車を出す事にしました。

文雄は一晩中アテも無く車を走らせますが、お嬢さんは何も事情を語ってはくれません。
夜が明ける頃、代々木から出発したタクシーは、いつしか八王子の山の麓に来ていました。
お嬢さんはやっと自分の事を少しづつ話してくれるようになりますが、彼女の逃避行はどうやら誘拐や強盗といった物騒なものでは無さそうです。

聞けば、お見合いを無理強いされたという話ですが、それが義理の母の指図という事で断りにくいというのです。
文雄はちょっとシンパシーを感じます。
彼女は一見やんちゃな感じなのに、案外気が小さい所もあるようです。
文雄が「そんな縁談断わりゃ良い」と言っても「でも義理の母には言いにくいのよ」と話す様子からは、相当な重圧が感じられます。

田中絹代さんの出演している映画


ちょっと大人になった文雄

文雄がいくら説得しても、お嬢さんは家に帰ろうとしません。
仕方なく文雄は、彼女を自分の下宿に匿う事にします。
そしてタクシー会社に戻ってみると、昨晩の男たちが現れて苦情を言ったり乱暴したりと、店は大騒ぎになっていました。

母親はまたもや文雄が問題を起こした事を察知し、文雄に辛く当たります。
ところが義兄は、あくまでも文雄を信頼する姿勢を崩しませんでした。
そんな義兄の気持ちを受けてか、文雄は今度こそ家に戻って来ようと決心したようです。
昔の仲間と手を切り、お嬢さんには家に帰るよう説得します。
その様子は「一緒に立ち向かおうよ」とでも言うような親身で真剣な態度で、お嬢さんもとうとう根負けしてしまいます。

文雄はまるで自分の姿を客観的に見て、おまけにそれが自分よりも危なっかしい様子なので「自分がしっかりしなければ」という心境になったように見えます。
彼に必要だったのは助けではなく、自分を必要としてくれる存在だったのかもしれません。

島津保次郎さんの監督映画


1934公開

ギャング映画にでも出てきそうなタクシーや衣装がレトロモダンな雰囲気で、それに浪花節っぽい「義理人情」が融合するという和洋折衷な雰囲気の映画でした。

ところが内容のホッコリ感とは裏腹に、冒頭でいきなりタクシー強盗が出現するという「つかみ」が結構ショッキングです。
強盗と運転手とのやり取りが不思議というか新鮮で「突然うしろからガツン!」というのではなく、客がベルトを外すのを運転手が察知するのです。

普通ならギブアップという所ですが、この運転手は最後まで希望を捨てずに説得に入ります。
それが「旦那さん、止しましょうよ・・・」みたいな感じで、強盗をなだめすかす様子に愛嬌がある所が笑えます。

結局この運転手は助かり、社へ戻って「物騒だから助手を付けてくれ」という話になります。
昔の映画を見ていると、タクシーに「カーナビ係」みたいな助手が助手席に乗っている場面がよく見られます。
こういう場面を見ると、案外セキュリティ上の理由もあったのかなと思いました。

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