「南風」は、男に翻弄される娘の、苦難の人生を描いた物語です。
娘が田舎から都会へと彼氏を追いかけて行く様は、思いっきり女が男を追跡するという図式ですが、男はラクラクと逃げおおせてしまいます。
彼氏の煮え切らない態度や、娘の彼氏を横取りしてしまう女友達の身勝手さが露骨で、都会の殺伐とした空気を感じました。
都会生活が自由できままなのは良いけれど、村社会のような「牽制」が全く効かない世の中も、それはそれで怖いものだと思いました。
恋人を追いかけて家出してきた娘、菊子(田中絹代)
菊子は徹(徳大寺伸)と恋愛に落ちて、将来を約束していました。
2人は結婚するものと信じていた菊子ですが、彼が本気では無かった事が、だんだん分かってきます。
都会へと就職した徹を訪ねて、単身上京した彼女に対し、徹は歓迎する様子もありません。
菊子は、なるべく徹の重荷にならないように、東京の叔父の家に身を寄せようとします。
叔父さんの家の二階には、音楽学校に通う学生・道雄(佐分利信)が間借りしていました。
学生は菊子を気に入ったらしく「東京見物にお連れしますよ」などと、親切に声をかけます。
ところが肝心の叔父さんは他人のように冷たく、アテが外れてしまいました。
仕方なく菊子は、徹の下宿に住み始めます。
ところが、家主の女性に「奥さん」と呼ばれて喜んでいる菊子を見た徹は、深刻な面持ちになるのでした・・・。
◆田中絹代さんの出演映画◆
お金持ちで奔放な女友達、かほる
悲劇の序章は、菊子の同郷の友達・かほるが訪ねてきた事から始まります。
かほるは「3人で美味しいものでも食べに行こう」と誘いに来たのでした。
菊子は、何か気掛かりな事があって気が進みませんが、徹とかほるは たちまち意気投合してしまいます。
徹とかほるがいい感じになっているのを見て、菊子は露骨に嫌な顔をして「先に帰る」と言い出します。
内心では徹が追いかけて来てくれるのを待っていたのですが・・・。
ところが、2人が自分にかまわず二次会へ出かけてしまったのを見て、菊子はブチ切れて猛ダッシュでその場を立ち去ります。
菊子が嫌がらせをして突っぱねても、かほるはしつこく訪ねてきては誘うのを止めません。
スキーへ行こうと旅行に誘い、しまいには徹だけ連れて行ってしまいます。
ところが菊子は、素直に「行かないで」と言う事が出来ません。
徹はイライラして孤立していく菊子から逃れて、享楽的な かほるの方に惹かれていきます。
絶体絶命の菊子
徹は旅行に行ったまま、下宿に戻ってくる事はありませんでした。
そのまま かほるのアパートに身を寄せてしまったのです。
ところが菊子は、すでに徹の子を身ごもっているのでした。
叔父を頼る事も、田舎に帰る事も出来ず「お先真っ暗」という心境です。
途方に暮れた菊子は、偶然に叔父の家に下宿している道雄に出会いますが、他人である彼が一番 親身になって話を聞いてくれるのだから、皮肉なものです。
1939年公開
この映画は、文京区から台東区一帯の「谷根千」といわれるエリアが舞台になっています。
都会といっても下町風で、その暮らしぶりや風景は、今から見ると新鮮で風情がありました。
徹の下宿はこざっぱりしていて、大家の叔母さんがいたり、同年代の同居人とは一緒に旅行に行くような仲で
なかなか賑やかです。
隣り合った家の窓がお互いに開け放たれていて、お隣さんの様子が丸見えなのは、この時代の特徴のようです。
置いてけぼりにされた菊子が部屋でひとり号泣しているのを、お隣の人が心配そうに眺めている場面が、なんか可愛い・・・。
お祭りの時には、突然玄関に「獅子舞」が乱入してきたり、汽車が黒い煙をモクモクを上げて走る様子など、色々と面白い風景を見ることができます。
◆渋谷実さんの監督映画◆
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