あらくれ

「あらくれ」は、パワフルで男っぽい娘が紆余曲折を経て、自立の道を歩んでいくという人生ドラマです。

ヒロインが数々の困難にもめげず、人に依存する事なく、自分の意志を貫いていく強さが爽快でした。

ただの「嫌われっ子」だった娘が、自分に限界を設けてウジウジしている周囲の人間を尻目に、どんどん可能性を広げていくのを見ていると、何だか勇気が湧いてきます。

野心家でパワフルな、お島(高峰秀子)


お島は、気が強くて人一倍働き者の、野心ある女です。
子供の頃から手に負えない跳ねっ返りで、兄弟の中で一人だけ里子に出されていました。
養家先では勝手に結婚を決められてしまい、これを嫌がったお島は逃亡するしかありませんでした。

次に決まった縁談は東京の商家ですが、ここでも夫とうまくいかず、大喧嘩して階段から落ちた事で子供も流産してしまいます。
今度は出戻りという事で嫁入りは諦めるしかなく、兄のいる青森を頼って働きに出ます。
ところが兄は借金を作って他へ移転してしまい、お島は借金のカタにある旅館に縛られるハメになってしまいます。

その後しばらく転々とした後、お島は内職をしていましたが手持ち無沙汰になり、服飾工場に勤める事になります。
人一倍働き者で根性の座ったお島は、この工場でたちまち頭角を現します。
周りの勤め人の仕事ぶりのぬるさを見て、自分でも店を出せるような気分になってきたお島は、持ち物を売りに出し、親しくしている職工・小野田(加東大介)に誘いをかけて独立します。

この頃では、一緒に店を持つ事がイコール結婚という流れになるようで、二人は夫婦になります。
店は一度は潰れたものの、お島の力量でだんだん発展していきます。
ところがこの小野田が曲者で、店の主人になった事で働かなくなったり妾を作って豪遊したりするので、お島もだんだん愛想を尽かし始めるのでした。

高峰秀子さんの出演している映画


人の男を欲しがる女、おゆう(三浦光子)


お島がかつて離縁された商家の夫には、幼馴染の女友達・おゆうがいました。
このかつての夫は芸者を囲ったりして女にだらしのない男でしたが、このおゆうとも何やら仲が良い様子でした。

おゆうは、どこかお島に冷たく当たってくるフシがあり、ライバル心でも燃やしているそぶりをしていました。
おまけにおゆうは棟梁の家のお嬢様という事もあり、田舎者のお島を完全に見下しています。

ところが、お島の店が繁盛し始めた頃、二人は街で偶然に出会います。
洋服店の店主に収まり、羽振りが良くなったお島に対し、おゆうは掌を返したように媚を売ります。
おゆうは、どうやら最初の結婚に失敗し、その後はお島の元夫の妾のような存在になっていたようです。
ところが元夫にも捨てられ、すっかり落ちぶれていたのです。

三浦光子さんの出演している映画


妙な因縁を持つ二人の女

お島は店が起動に乗ってもその手を緩める事なく、ガンガン攻め続けます。
一方で小野田は使えないどころか、妾を作ったりしてお島の目障りな存在になってきました。

ある日お島は小野田の後をつけ、現場を取り押さえようとします。
ところが妾の家に行ってみると、そこに居たのは何とおゆうだったのです。
お島はおゆうに掴みかかり、取っ組み合いの喧嘩をします。

かといってお島は小野田に未練がある訳ではなく、これを良いことに小野田を追い出し、若い職人を連れて新たな店を出す計画を立てるのでした。
そのお島の表情は、やけに清々しく見えます。

成瀬巳喜男さんの監督映画


1957年公開

この映画を見ていると、人に雇われるのはあくまでも通過点であって、最終的には自分の店を持つ事がゴールなのが興味深いところです。

今となっては、一生サラリーマンでいる事に疑問を抱く人は少ないと思います。
これは会社員も悪くなかった時代が、長く続いたせいかもしれません。

ところがそれも、最近では違ってきたように思います。

そして女性の一生も、結婚がゴールという「無理」が顕在化してきました。

この大正のヒロインは、いつまでも昭和の感覚が抜けない大人の常識より、むしろこれからの時代に近いものを感じました。


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