愛のお荷物

「愛のお荷物」は、ベビーブームに湧く「過剰人口」時代を描いたドタバタ・コメディです。

子供があふれ返る様子や、度重なる「おめでた」ネタには、ベビーブーム期の勢いが強調されていました。

映画じたいは軽快なドタバタ・コメディで、キャラクターたちも個性的で楽しいのですが、所々に何やら妊娠に対する印象の「誘導」があるような気がしました。

やたらとガマガエルのイメージがリンクされていたり、一斉「つわり」現象で大騒ぎになる様子などは、ちょっと悪意のようなものを感じますw

とはいえ政府の思惑や社会の風潮などおかまいなしに、思いのままに振る舞う女たちがたくましくて、小気味良い物語でした。

人口問題に奔走する大臣、新木錠三郎(山村聡)

新木は厚生労働大臣として、増え続ける人口による社会不安への取り組みをしています。

国会では野党が「中絶の合法化」を掲げるのに対し、与党はあくまでも「受胎調整」で対処する方針のようです。

ところが新木の家庭では、夫人の蘭子(轟夕起子)が、48歳という年齢で妊娠をした事が発覚します。

これは彼の政治的な立場を揺るがしかねないし、年齢の事もあって、新木は蘭子に中絶を勧めます。

ところが問題は、蘭子の事だけではありませんでした。
彼の秘書と長男の錠太郎(三橋達也)との間にも子供が出来てしまい、結婚問題を巡って家の中は急に騒々しくなってしまいます。

更には これから結婚する予定の三女までが妊娠している事が分かり、家庭と国会の両面で、新木は苦しい立場になって行きます。

彼は口では「中絶は倫理的に許されない」とか「子供ができたら結婚するべきだ」と言っていながら、自分の家庭の事となると話は別で、事態は収拾がつかなくなってしまうのでした。

山村聡さんの出演している映画


クールで行動力のある才女、五代冴子(北原三枝)

冴子は、いつも冷静で頭脳明晰なだけでなく、人間心理を見抜いて上手に操る手腕を持った、賢い女性です。

彼女は新木の秘書をしていますが、新木家のひとびとの感情を巧みに誘導し、すべて自分の思い通りにしてしまいます。

事の発端は、錠太郎との結婚問題にはじまります。
冴子は、いつまでも親のスネをかじっている煮え切らない錠太郎とのお付き合いに業を煮やし、計画的に妊娠してしまいます。

それでも錠太郎の決心は「親次第」という感じで、冴子の次なる狙いは新木や蘭子へと向けられて行きます。

新木たちは、冴子が父の使用人であり家柄が釣り合わない事を理由に、二人の結婚に反対の姿勢でした。
そして新木は、冴子に医師の診断を要求したり、遠回しに中絶をほのめたりして、彼女に結婚を諦めさせようとします。

冴子は錠太郎が親を説得できないだろうという事を見越して、まずは彼に家出をさせます。
ところが そこで、あくまでも錠太郎とは同棲しないのがポイントです。
「結婚の許しをもらうまでは」と別々に行動し、親が反対なら結婚は望まず子供はひとりで育てるという手紙を渡し、蘭子の心情に訴えます。

その一方で、錠太郎が趣味でハマっている「無線による電話セット」とかいう発明の特許申請の手筈を整えたり、彼の就職先まで知人に紹介してもらうという周到さなのでした。

北原三枝さんの出演している映画


結局すべては女の手の内にある・・・?

冴子は早々に辞職願を提出したり、強いて結婚を望まないといった態度で、親たちの心証をよくする事に成功します。
ボンボン育ちの錠太郎に、強行な態度で家出させたのも、親たちの反対を揺るがせる助けとなったようです。

でもどうやら「決め手」は、冴子の家柄でした。
蘭子が興信所に調べてもらうと、冴子の家は新木家との釣り合いが取れるレベルだったようです。

三女の妊娠問題も、お爺ちゃんに危篤の芝居を打ってもらう事で、結婚の時期を早めて解決してしまいます。
ずいぶんとベタな方法ですが、この発案も冴子から出たものなのでした。

けっきょく彼女は一度も真正面からぶつかる事なく、根回しと策略だけで思うような結果を得ます。
それでも、誰も傷づくどころか「丸く」収まるところに、冴子の真の実力を感じてしまいました。

その一方で、新木は遊説で向かった京都で、若いころ恋に落ちた相手と28年ぶりの再会をします。

18歳だった舞妓のソメ(山田五十鈴)は、当時 京大の学生だった新木と別れた後で、子供を身ごもった事が分かったのでした。
結婚はしたものの夫は戦争で亡くなり、その後はずっと一人で子どもを育て、大学まで出したと言います。

それでもソメの態度に、恨みがましい様子は一切ありません。
28歳になる息子が政治家志望なので、その道の手助けをして欲しいというお願いに来たのでした。
新木が、どうして今まで黙っていたのかと聞くと

「お願いするのは、一生に一遍のつもりどした」

という彼女の毅然とした態度が、やけに印象に残りました。

長年苦労を重ねて辛抱し「ここぞ」というタイミングで切り札を切るというソメの賢さには、冴子と共通するものを感じます。

川島雄三さんの監督映画


1955年公開

この映画を見ていたら、ベビーブームがどれくらいスゴかったのか気になったので、ちょっと人口の推移を調べてみました。

確かに、日本の人口は明治維新以来ずっと増加の一途をたどっていました。
ところが「出生率」でいえば、そうとも言えません。
「推移」に関していえば、戦後を頂点に急激に下がっているくらいです。

グラフなどを見ると第一次ベビーブームの内訳は、死亡率の減少による「累計」としての人口増加に見えるし、戦争が終わった事の反動だったという気がします。
(直前の3,4年間の統計は取れなかったらしく、数値は空白になっていました)

この頃の「産児制限」政策が功を奏したのかどうかは、分かりません。
でも第一次ベビーブームの後は、第二次ベビーブームを頂点に「出生率」や「合計特殊出生率」はずっと下がり続けていて、少子化の「傾向」は今に始まった現象ではないようです。

この映画を見ていたら、少子化は自然な流れというよりも、何か意図や思惑の存在があったような気がしてきます。

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