「洲崎パラダイス 赤信号」は、東京洲崎遊廓をめぐる下町人情と恋愛を描いた物語です。

この艶めかしくて雑然とした界隈が、ミステリアスな怪しさと人情味が豊かに描かれていて、とても新鮮な感覚でした。

何にも持たない風来坊のような若い男女の、切れそうで切れない様子が危うく、そして微笑ましくもあります。

都会の片隅の、すれ違いざまのような人間関係の中にも、とても温かいものが通っている所が印象的でした。

自由きままな蓮っ葉娘、蔦江(新珠三千代)


蔦江は、貧しい家に生まれたせいで、かつて遊郭で働いていた事があります。
今は恋人の義治(三橋達也)がいますが、彼は勤め先をクビになり、二人はとうとう一文無しになってしまいました。

それなのにグズグズと行動しない義治にしびれを切らし、蔦江は元の古巣である「須崎パラダイス」という遊郭に舞い戻ろうとします。
ただ、蔦江も本心は戻りたくは無いので、遊郭の前まで来たもののやはり躊躇してしまいます。
そして、ふと小さな飲み屋の求人が目に入ったので、女将に掛け合って住み込みで働かせてもらう事にしました。

蔦江は美人で客の扱いも上手いので、たちまち飲み屋で“お得意”を作ってしまいますが、義治の方はとりあえず始めた蕎麦屋の出前という仕事に身が入らず、相変わらずグズグズしています。
そして義治のイジケっぷりとは対照的に、蔦江はさっそく店で落合という愛人をこしらえ、彼に用意してもらったマンションへ移ってしまいます。

一方 義治は、普段はテンションが低いのに嫉妬心だけは人一倍のようで、驚くような執念で蔦江を探し回るのでした。

新珠三千代さんの出演している映画


堅実でお人好しな女将、お徳(轟夕起子)


須崎パラダイスの入り口付近にある小さな飲み屋の女将・お徳は下町風の気さくな中年女性で、一人で小さな男の子二人を育てています。

お徳の夫は、遊郭の娼婦と駆け落ちしてしまったのでした。
お徳は面倒見の良い善良な女性で、義治の勤め先も彼女が見つけてきたものです。

お徳は義治に、男を作って出て行ってしまった蔦江を諦めさせようとします。
お徳としては、蔦江はやはり良い妻にはなりそうもないという判断で、義治の事を思うと二人は別れた方が身のためだと思ったのです。

そして暫く経ったある日、お徳の店に蔦江が現れます。
贅沢になって、すっかり身なりも良くなった蔦江は
「義治と一緒にいたときは、落合のスクーターの音を聞くと心が踊ったけど、
いまは蕎麦屋の自転車の音がすると、義治が懐かしくなるのヨ」
などと、ぬかしますww

お徳は蔦江に、義治はどこかへ行ってしまったと嘘をつき、義治には蔦江が来た事を伝えませんでした。

義治の勤め先には実直な娘がいて、彼女は義治が気に入っています。
お徳は、彼女こそ義治の相手に相応しいと思ったのです。

轟夕起子さんの出演している映画


再会

二人が去った後、お徳は以前の日常へと戻っていきます。
ところがそこへ、なんと夫がふらりと戻って来たのです。

夫は完全に反省しており、もう一度やり直したいと言います。
お徳は最初こそ躊躇したものの、やはり心の底では嬉しくて、夫を許す事で元の暮らしを取り戻します。
これで皆、収まる所へ収まったと思いきや、物語は急展開します。

お徳が幸せな暮らしを取り戻したのは束の間で、夫は駆け落ちしていた女に殺されてしまいます。
お徳がショックで気も狂わんばかりになっている殺人現場で、義治と蔦江は偶然出くわします。

二人は、目と目のやり取りだけで
「やっぱり、この人しかいない」
と確かめ合っているようです。

川島雄三さんの監督映画


1956年公開

映画は、遊郭の界隈を扱っていながら、最後まで中の様子は出てきません。

それが逆に、いかに「向こう側」が特殊な世界かという事を物語っているようでした。

そして一歩間違えば、堕ちる所まで堕ちてしまうという切迫感と、
貧困が恋愛感情まで萎えさせてしまう絶望の中で、若い二人が何とか踏みとどまる様子には、清々しいものを感じます。

お世辞にも風情があるとは言えないような、雑然とした川や橋、安っぽい装飾の夜の街、
そしてゴミゴミした秋葉原の様子には『昭和の雰囲気』が満ち溢れていて、今となっては貴重なロケーションだと思います。

ボロい芝居小屋のチャチなチャンバラ劇や、蕎麦屋の出前のあんちゃんが鼻歌を歌う様子などが楽しく、下町の人々が活き活きしていました。

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