最近は、和食の良さが見直される風潮になって久しいと思います。

ところが戦後から高度経済成長期にかけての映画には、日本の食の欧米化が急激に進んだ様子が描かれています。

西洋の食文化は新時代のライフスタイルとして持てはやされ、一方で和食は日本古来の習慣とともに「遅れたもの」という印象になっています。

今回は、和食文化がどんな風に廃れていったかを垣間見るような映画をまとめました。

【あの手この手】パン食は意識高い系?

「あの手この手」には、パンが体に良いという「流行」が、ちょっと皮肉に描かれています。

この物語の主人公は、大人しくて ちょっと間の抜けたインテリ男性です。
その彼が「進歩的な」奥さんに支配される光景は、いま見ても笑えるくらい凄まじいものがあります。

この奥さんの朝食が「洋食」なのが象徴的で、当時はそれが知的かつ都会的という風に描かれています。

旦那さんはご飯と味噌汁の朝食が食べたいのに、支配的な奥さんに押し切られ、まずそうに嫌々パンを食べています。

さらに、開業医をしているご近所さんのセリフに「パンは医学的に栄養があるんですよ」というのが出てきます。
これは和食の方が健康的だと分かってしまった今となっては、ひと言ツッコミたくなる違和感がありました。

【青春怪談】西洋式合理主義を体現した「青汁」

「青春怪談」には、自分で家事をこなす青年が、青汁のようなものを自作している様子が描かれています。

主人公は、合理性と理論を追求しながら、ビジネスによる成功に燃える青年です。

彼は人間の感情があまり理解できない淡々とした性格で、おっとりとした情緒的な母親とは正反対な様子が、面白おかしく描かれています。

この家庭では、家事の一切を息子が担当しています。
食事も息子の作る「合理的な」野菜ジュースで、それを母親が鼻をつまんで一気飲みする様子は、今の『青汁』を彷彿とさせます。

これこそが西洋式合理性の象徴という感じで、もはや食事は薬のように胃袋へ流し込む「栄養剤」と化している様子が、この頃はまだジョークとしてまかり通っていたようです。

一方で「情緒的な」母親が、ばあやのいる純和風な暮らしを営む家庭を羨ましがって
「ウチではお米が食べられないんです!ただの一粒も!」
と嘆く様子は、コミカルに描かれてはいるものの、シニカルなニュアンスを感じました。

【誘惑】若者文化に根付いた、コーヒーとパン

「誘惑」には、親子で別々のメニューを食べる食卓の様子が描かれています。

この映画も流行を追い求める「今どきの」娘と、懐古主義的な父親が登場し、そのギャップがネタとなっています。

親子の価値観の違いは、かれらの食卓の様子にも現れています。
他の2作品は家族が嫌々ながらも付き合っていたのに対して、この頃になるともう、それぞれに違うメニューとなっています。

父親はご飯と味噌汁だし、娘はパンとコーヒーという「嗜好の分離」が見られるようになってきた時代の到来です。

いよいよ若い層に洋食が根付いて「定着」している日常の様子が、このあと日本の食卓が大きく変化して行く流れを表していました。

日本人の命を守る、和食文化

日本のお米離れは、和食が見直され始めた中ですら、その流れは止まらないようです。

確かに洋食への甘い誘惑は、ダイレクトに本能を刺激してきて、ややストイックな感じの和食への移行は難しいものがあります。

ただ長い目で見ると、日本人の嗜好の変化は、明らかに健康に悪影響を及ぼしている気がします。
小麦や牛乳のアレルギーをはじめ癌や糖尿病の急増は、因果関係などは言われていないものの、その推移の様子はまるで和食離れと反比例しているようです。

それが「メイド・イン・ジャパン」の食品ならまだしも、小麦がほぼ輸入というのも残念な感じです。
お肉も輸入が増えてきたし、国産にしても畜産に必要なエサが輸入だったりします。

昭和の映画を見ていると、特に戦後は欧米文化への追従気質が強く出ていて、その背景にあるビジネス色が垣間見える事があります。

日本の「小麦」依存度の高さは、じつは戦後の食糧難をキッカケに、アメリカが仕掛けたのが まんまと定着した好例なのだそうです。

そしてこれまで日本が死守してきたお米の存在も、いよいよ風前の灯火のようになってきました。

まずは「種子法の廃止」という、主食の種の自由化を推進する動きがありました。
これまでお米の種は開発から供給まで税金で賄われていたのに、明らかに流れが変わってしまいましたね。

そして1年前はけっこう話題になっていた「種苗法の改正」も、マスコミが疫病騒ぎ一色になっている間にすでに成立しています。
この改正は「種の知的財産権」を守り、農家が作物から種を取って栽培する権利を縮小する趣旨のもので、行き着く先は種の「ビジネス化」です。

たとえば種のビジネスが国際競争で負けて、お米の種も海外から輸入しなければならなくなったら?と考えてしまいます。
小麦も輸入、種も輸入の状態で、かつてのABCD包囲網みたいな事をされたら、日本は一貫の終わりです。

食生活の変化が単なる嗜好の話で済めば良いのですが、食の安全保障が脅かされるのは怖いと思います。

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